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体罰(前編)

「畑山君、一寸、良いかしら?」
珍しく登校をしてきた畑山将人は水咲麗子に呼び止められた。将人はいわゆる問題
児で、登校する度に教師に呼び止められるのは当たり前であった。
「先生、俺、忙しいんスけど」
将人は面倒臭そうに答えた。これから、登校してきている仲間を集めて遊びに行こ
うと言う矢先に一番、厄介な教師に会った。そんな、思いがありありと読み取れる
表情を彼は浮かべている。
「また、腕尽くで来て貰うしかないわね、畑山君」
麗子は将人の反抗的な態度に決然と宣言した。
「判ったよ、おとなしく付いてきゃ良いんだろ?」
将人の脳裏に何度となく、目の前の教師に腕を捻り上げられ、犯罪者の様に生活指
導室まで連れて行かれた記憶が蘇る。痛い思いに遭い、大勢の生徒の前で恥をかか
される位なら素直に従って適当に話を聞き流す。彼はそう決断した。

麗子が将人を伴って訪れたのは生活指導室ではなくボクシング部の部室だった。将
人は職員室や生活指導室ではなくボクシング部の部室に麗子が向かった事に疑問を
感じなかった。麗子は数学教師、風紀指導、ボクシング部顧問の3つの肩書を持っ
ている。自分の風紀指導にこの場所が選ばれたのは他の場所が使えないだけの事だ
と軽く考えていた。
「さて、畑山君、貴方の最近の生活態度だけど――」
部室に入り、扉を閉めるなり麗子は将人の様々な行状を並べ始めた。
飲酒、喫煙、授業のサボタージュ、他校生との喧嘩、集団暴走行為、バイク盗難、
その他、高校生として考え得る問題行為が麗子の口から次々と告げられる。
一方、聞いている当人は良くここまで調べ上げたと感心していた。心当たりはある
ものの、はっきりと覚えていない自分の行為を子細に指摘される様は、不良仲間か
ら聞かされる自分の武勇伝を思わせ、将人は薄ら笑みを浮かべ始めた。
「――以上の行為を考えたら退学ものなのだけど……一部の行為以外は証拠が無く
て困っているのよね」
結局、麗子は将人に対して証拠の残る一部の行為に対して停学処分を行なう事を告
げた。しかし、麗子は彼を簡単に解放するつもりは無かった。何より、自分の悪行
を聞かされ笑みを浮かべる様な生徒は麗子には許せない。そして、言葉で判らなけ
れば鉄拳制裁も辞さないのが麗子の考えだった。
麗子は予てから胸に秘めていた、ある計画を実行するのは今を置いて他にはないと
考えた。
「畑山君、もし、停学を取り消してあげると言ったら、どうするかしら?」
将人は真面目で堅物である女教師の口から零れた思わぬ言葉に興味を持った。
「勿論、ただって訳じゃないだろ?」
麗子の言葉の裏には何かがある。そう感づいた将人は思わず麗子へと問いかけた。
「そうね……私とボクシングで勝負って言うのはどうかしら?」
普段からは想像も出来ない挑発的な麗子の口調は将人の癪に障った。
「良いッスよ、先生」
将人は苛立ちも隠さずそう答えた。麗子が女だてらにボクシングの顧問をしている
のはその腕に依るものだと彼は知っていた。だが、自分も喧嘩では腕に覚えがある。
幾ら強いと噂されるとは言え、女に挑発されて黙って居られる程、思慮深くはなかっ
た。

麗子の計画は概ね成功していた。麗子の経験上、問題児の何割かは学校が嫌いな割
りにはそこで仲間に会えない事を避けたがる。将人がそんな何割かの一人である事
を麗子は直感した。携帯に拠らず学校に来ていた事がその表れと読んでいたが正に
その通りだった。停学の取り消しを餌に将人は釣れた。
後は挑発し、その気にさせる。それも最も単純な方法で成功した。
二人はリングへと上がった。青コーナーでは将人は学ランとYシャツ、Tシャツ姿
を脱ぎ上半身は裸になり、グローブに手を通した。一方、赤コーナーで麗子は蒼い
ブラウスと紅のタイトスカート、足元はローヒールのパンプスとこれから闘いに臨
むとは思えない格好でグローブに手を通していた。自分が格下扱いされている事と
麗子の姿が彼の苛立ちを更に煽った。

「それでは、始めましょう」
麗子の言葉で闘いの火蓋が切って落とされた。
両コーナーから二人は離れると互いに間合いを詰めた。先に仕掛けたのは将人だっ
た。大きく拳を振りかぶる。そこへ麗子の鋭いジャブが彼の顔面を捕えた。
出足を挫かれた将人は一瞬、怯む。更に麗子のジャブが彼の顔面を捕えた。さほど、
ダメージを受けないが将人は鬱陶しく思いガードを上げた。そこへ麗子のボディス
トレートが将人の胃を抉った。
思わず膝をつく将人。その視線の先に麗子のパンプスが飛び込んできた。女に良い
一撃を貰った上に、その女がパンプスの様な足元の安定しない物を履いている。そ
んな事実が将人の怒りに火を付けた。
「あら、畑山君、もう終わりかしら?」
将人の怒りを見透かした様に投げかけられる麗子の挑発。その一言が将人の怒りの
炎に油を注いだ。
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