2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

GRAPPLE M@STER 月の女王

 俺は目の前の少女に苦戦していた。いや、完全に追い詰められていると言っ
ても良かった。
 長身ながら引き締まった肢体、それでいて巨乳と言って差支えのない豊満な
バストから括れたウエスト、そこから広がる安産型のヒップライン、日本人離
れした美しい銀髪のウェービーロングヘアに目鼻立ちの整った美貌。美少女と
言うよりは美人と言った方が相応しい容貌だ。
 本業はアイドルで彼女の歌い踊る姿は何度か見てきたが、激しいダンスにも
長丁場のステージに耐えうる体力も兼ね備えているのだろうということが容易
に推し量ることが出来るほど綺麗に腹筋が六つに割れている。
 その割れた腹筋ですら彼女の美貌を引き立たせていた。そして、美しさの奥
には恐るべき格闘センスを秘めている。
 普段は美しいダンスと妖艶な、あるいは純真可憐な歌声で人々を魅了してい
る彼女は今日、圧倒的な格闘センスから繰り出される力強く流麗な技と自身の
美しさで観客たちを魅了していた。試合が始まってから彼女が俺の打撃を躱し、
裁き、カウンターからのコンビネーションを幾度か当て始めた頃、歓声は彼女
の名を連呼する様になっていた。

 セコンド以外は俺の名を呼ぶ声がない疎外感の中、俺は彼女の攻撃を何とか
凌ぎ反撃の手を探っていた。
 彼女の左拳が閃光の様に閃き鋭いジャブを繰り出してくる、俺はそれを辛う
じて防御、その直後、足元が掬われる。最初に打った手とは逆の足でローキッ
クを放つ対角線コンビネーション、意識はしていたもののいざ打たれると身体
は上半身への攻撃を警戒してしまう。更に俺の身体に刻み込まれた彼女による
ダメージがそれに拍車をかけていた。
 細身とはいえ長身でなおかつ、鍛えられた身体を持つ彼女の打撃はそれなり
に、いや、想像以上に重かった。打撃屋(ストライカー)としてのセンスは並
大抵のものではない。
 俺の鳩尾を貫いた膝蹴りと脇腹を深くえぐったミドルキック、どちらも内蔵
までダメージを与えスタミナを奪い取っている。そして、片目の瞼を腫れ上が
らせ視界を奪ったストレート、フックで撃ちぬかれた頬は熱を持ち痣になって
いるのが判る。更に数え上げればまだまだ他にも出てくる。
 冷静に打撃を放ち俺を更に追い込もうとする彼女。だが、止めの瞬間は大ぶ
りの一発が来る。俺は満身創痍になりながらもその機会を諦めてはいなかった。
 懐に潜り込み体格差を活かしての組み技、俺はそれに勝負を書けるつもりだっ
た。そして、俺はその機会を手繰り寄せるためパンチを繰り出した。

 俺の攻撃に彼女がカウンターを狙い始める。俺は敢えて大ぶりのロングフッ
クを放った。無論、その攻撃は空振りに終わるが俺は更に踏み込んでいった。
 彼女の拳が俺をかすめていくのが判る。彼女のカウンターを掻い潜り、俺は
彼女の身体に手をかけた。若く瑞々しい肌の感触が掌に伝わる。男の肌とは違
う極め細かくなめらかな感触。だが、その肌の奥には過酷なトレーニングに耐
え抜き、鍛え上げられた筋肉が存在していた。
 タックルを仕掛け、組み付いたところで俺は彼女の本当の強さを認識した。
この身体は幼い頃から何か武道や格闘技を修め作られた闘うための肉体、自分
の身につけた技を緻密に動作させ最大限の破壊力を生み出すためのもの。己の
間合いに飛び込んできたものを無駄なく薙ぎ倒すための肉体。
 俺は踏み込んではならない領域に自ら足を踏み入れてしまったとさえ思い、
躊躇いが生まれる。その躊躇いがタックルの切れ味を鈍らせることになった。
 俺のタックルは押しつぶされ彼女が背中に覆いかぶさる。このままでは拙い
と俺は四肢をすぼめ亀の様に身を固め防御を試みるが、既に遅かった。

 組み伏せられたと思った直後には彼女が完全に背後に回っていた。しかも既
に彼女の腕が俺の首に巻き付き締め上げているる。俺は振り解こうと藻掻こう
とするがが彼女のコントロール下に敷かれていた。うつ伏せの状態で視界を占
めていたマットが消え観客席とカクテル色のライトの光が眼に飛び込んでくる。
 この状況から逃れることは敵わない、そう確信した俺はタップを告げようと
試みる。しかし、それよりも早く全身から力が抜けていった。俺はこのまま、
落とされて負ける。そんな思いの中、彼女がファンの間で月の女王と呼ばれて
いる事を思い出した。何かの神話につきを象徴とする狩猟の女神が存在したが
彼女はその化身なのではないか、そんな思いが脳裏をよぎる。
 そして、俺は痛みも苦しみもなく眠りについた。目が覚めたのは担架で運び
出される途中。タップする間もなく夢見心地で俺を落とした彼女との間には覆
し難い実力差が存在することを只々、痛感していた。

月の女王
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ