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GateKeeper

 とある高級クラブの前で一組の男女が口論をしていた。
 男の服装はニット帽を被りその下から伸び放題の脱色した髪の毛があちこちに跳
ねている。上半身はTシャツの上からパーカーを羽織り、腰から下はカーゴパンツ
にワークブーツと言った出で立ちで、明らかにこの店には似つかわしくない。
「当店は会員制となっておりますので、初めての方は当店オーナーからの招待状が
必要となります」
 冷静に、しかし無機質にも感情的にもならず戸口に立つ黒のベストとスラックス
姿の女が男を応対する。ねじり上げた後ろ髪を飾り気のない、それでいて野暮には
ならない程度の髪留めで留めた髪型とパンツルックが相まって仕事をそつなくこな
す女と言った印象である。
 また、常連客の中にはこの店のホストガールよりも彼女に接客して欲しいと言う
声も少なくないほど、整った顔立ちをしていた。しかし、彼女はそんな声に流され
ず常にこの店の戸口に立ち受付嬢を続けている。

「だからよ、会費は幾らなんだ?それくらいポーンと払ってやるからよ」
 口元に下卑た笑みを浮かべながら左手で尻のポケットから札束を取り出し受付嬢
の頬をピタピタと札束で叩く男。その風体と言葉遣いから、もやはチンピラにしか
見えない。
 事実、男はこの界隈では有名なチンピラだった。そして、この男は後ろ暗い事業
で得た札束をちらつかせてはこの街の店に強引に入り豪遊を繰り返していた。
 今日ここに現れたのは遊び歩いていた他の店から、この「ドリームクラブ」の噂
を聞いたからだった。
 選ばれた紳士しか会員になる事が許されない。その噂に興味を示し、実際に店の
前に立つとそこにいたのは他の店ならばフロアで接客していてもおかしくない美女。
 そんな女が受付嬢をしているのだからこの店にはどれだけの美女が揃っているの
かと男は胸を踊らせていた。
 しかし、受付に立つ女は頑として道を譲ろうとしない。
「なんだったらよ、コイツはあんたへのチップってことでも構わないんだぜ」
 受付嬢の応対に焦れた男はとうとう彼女の頬を札束で撫で始めた。
 しかし、受付嬢は狼狽えること無く男の手首を掴むとゆっくりと札束を頬から引
き剥がしはじめた。
 思わぬ力に男は抵抗しようとするが、途端に視界が急回転した。

「まったく……言葉ではご理解して頂けないようでしたので、身体でご理解してい
ただくしかないようですね」
 合気道の小手返しで男を投げた受付嬢は彼を見下ろすと静かに告げる。
「てめぇ!何しやがるっ……ぐっ……なんだよ、コレ!」
 脂汗を浮かべながら左腕を抱え男がわめきちらす。男の左腕は既に使い物になら
ない様で動かそうとするたびに激痛が走る。
 しかし、男はその痛みに耐えゆっくりと立ち上がるとベルトの鞘に差してあった
大型のサバイバルナイフを抜き出す。
「このアマァ……たかが女に酒を注がせる店が何いってやがる!ふざけるなよ、テ
メェ……ブッ殺してやる!ぶっ殺してやる!」
 目を血走らせながら狂ったように叫びながら男はナイフを振り回して受付嬢に斬
りかかった。
 対する受付嬢は冷静さを欠いた男の大振りのナイフを冷静に躱していく。
「どうやら、未だご理解いただけないようですね……厳しく行かせてもらいますよ」
 今まで、感情をほとんど見せなかった受付嬢が静かに宣言をする。

「当店は!」
 ナイフを頭上から大きく振り下ろし突っ込んできた男を右に回りこみ、がら空き
の鳩尾めがけ左の膝蹴りを叩き込む受付嬢。その表情と口調が宣言通り厳しく変化
した。
 人体でも最も硬いと言われる部分が男の鳩尾に深々と突き刺さり横隔膜と突き上
げる。更にカウンターで入ったこともあり、男の身体が一瞬、浮き上がった。
「ひゅうっ」
 肺を圧迫され男の口から一気に吹き出した空気が奇妙な音を立てる。
「ピュアな紳士以外のご来店を!」
 着地し、たたらを踏み後退する男の鳩尾にめがけ右足を真っ直ぐ突き上げた。今
度は男の鳩尾を受付嬢の硬いローファーの爪先が抉る。受付嬢の前蹴りに男の身体
が折れ曲がると、彼女は右足を地に降ろさずに男の顎へと跳ね上げる。
 前のめりに崩れそうになっていた男の身体が伸び上がり口の端から唾液と血が入
り混じり流れでた。
「お断りしています!」
 受付嬢は右足を着地させると身体を左前に倒しながら左足を後ろから振り上げた。
身体を軸にした風車のように受付嬢の広げた足が回転し左の踵が男の顔面へと吸い
込まれていく。
 受付嬢の全体重が集中された踵が男の鼻梁を押し潰した。鼻血と唾液、口内から
の出血を糸のように引きながら男の体が背中からアスファルトに叩きつけられる。

 ヒクヒクと痙攣を繰り返す男のそばで受付嬢がすくっと立ち上がった。
「ご理解いただけましたか……と、もう聞こえてないでしょうね」
 スラックスの埃を払い、大技胴回し回転蹴りで乱れたベストの襟を正しながら男
を見下ろす受付嬢。
「参りましたね……少しやりすぎてしまったようです。これからご来店されるお客
様もいらっしゃるのに……それに既にご来店されたお客様の中には制限時間前にご
帰宅させてしまう方もいらっしゃるでしょう」
 普段はポーカーフェイスを崩さない受付嬢が今度は眉根を寄せ思案する。
「先ずは警察と救急車の手配をしてしまいましょう」
 やるべきことはやらねばと言った風情で懐から携帯電話を取り出しダイヤルする
受付嬢。
「始末書と減給は覚悟しなければなりませんね……今月は苦しいのに……」
 耳に当てた携帯から聞こえるコール音の回数を数えながら受付嬢は深々とため息
を付いた。
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