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ぶっこみの拓海

 今度の対戦相手は不良上がりだと聞いていた。俺はどうもこの手の相手が好
かない。最も大事な時期に無駄にエネルギーを浪費している。中には格闘技を
始めて立ち直る奴も居るがそういう奴は俺に言わせれば稀だ。
 今回の相手はどうだろうか?俺はそれを見極めるつもりでリングに上がるつ
もりだった。そんな俺に衝撃的な一言が告げられた。対戦相手はアイドルで女
相手のエキシビジョン。
 俺は女が格闘技をする事に嫌悪感しかなかった。どんなに鍛えようと体力も
腕力も男に劣る。はっきり言ってそんなものはお遊戯くらいにしか思っていな
い。
 俺は対戦相手に思い上がりだと思い知らせるために入念に調整した。元不良
と言うのも気に入らないと言う事もあり、調整は一層力が入る。
 遂に試合の日が訪れる。眼の前に立つ女は向井拓海と呼ばれ、不良どもが好
んで身に付ける紫色で彩られたタンクトップにトランクス、リングシューズを
身に纏っていた。
 唯一、グローブは赤かったがそれも俺には気に喰わなかった。俺のグローブ
は青。格下扱いされている気がしてならない。
 だが、俺はそんな思いを抑え込んだ。冷静さを失えば勝てるものも勝てなく
なる。そして遂に試合が開始された。
 相手は俺よりウェイトで劣っている。フットワークを駆使して俺を撹乱して
くるだろうと踏んでいたが、拓海はジリジリと間合いを見極めてくる。
 打ち合うつもりなら話は早い、さっさと終わらせてしまおう。俺はそう考え
拳を繰り出した。
 だが、それは風切り音とともに虚しく空を切る。それと同時に俺の顔から弾
ける打撃音。
 一瞬、その姿勢を保つ二人。見れば拓海は紙一重で俺の拳を躱し反撃の手を
繰り出していた。口元には不敵な笑みを張り付かせている。
 その様子に俺はこれが偶然ではないことを悟った。気を取り直し一発、二発、
三発とコンビネーションを繰り出す俺。再び拓海はそれを躱していく。
 しかし、三発目は二発目が躱されたことを織込み済みの攻撃。それもあっさ
りとパーリングで逸らされた。
 続いて拓海のコンビネーションが俺に降り注ぐ。想像以上に重い打撃音と共
に俺はぐらついてしまう。
 拓海はどうやら階級以上のパンチを持っているようだ。俺はその事実に焦り
はしなかった。世の中にはそういう奴も存在する。
 俺は努めて冷静に闘いを進めた。俺の一発が当たれば拓海は崩折れる程の細
身。それで相手は身の程を思い知る。
 時間は刻々と過ぎていった。俺の拳は一切、拓海に触れること無く、拓海の
拳は俺の脳を揺さぶり、肉体を切り刻み内蔵を抉り蝕み続ける。
「悪いね。あんたの動きわかりやすいよ。木刀や金属バットを振り回してくる
素人のほうが何をしでかすかわからなくて怖いぜ」
 あいも変わらず俺の拳を紙一重でかわしながらカウンターを繰り出してくる
拓海がそう言う。
 しかし、そう言う拓海の攻撃が大振りになってきたのを俺は見逃さなかった。
右手を大きく振りかぶった瞬間、俺は懐に潜り込みつつボディストレートを繰
り出そうとする。
「遅いんだよ!オラァッ!」
 そう聞こえると同時に俺の視界が左下へ急転した。そのまま崩れ落ちそうに
なる俺。
 そこへ鳩尾から背中へと突き抜ける衝撃と浮遊感を味わう。俺の身体が浮く
ほどのボディアッパー。それが正体だった。
「どうした?プロの戦いってやつを見せてくれよ」
 俺は鳩尾を拓海の拳を突き立てられたまま、これ以上は戦えないことを悟っ
た。
 拓海の拳が俺の腹から引き抜かれると同時にマットが徐々に近付き始める。
しかし、俺はその様子を最後まで見届けることができなかった。
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