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銀河最強の拳

 またボディで浮かされた……腹筋を貫き背中拳がから飛び出したのではない
かと錯覚するほどの衝撃が俺の内蔵を押しつぶす。
 今回の対戦相手もアイドルと聞いた時は冗談じゃないと真剣に思った。確か
にこの前の試合でアイドル相手に負けたことは認めるが俺は噛ませ犬ではない
と憤った。
 しかし、対戦相手の名を聞いて俺は考えを改めた。その名は菊地真。800
戦無敗のステゴロ・ザウラーのどんな攻撃も強靭な肉体で受け止めるというデ
モンストレーションをたった一撃で粉砕した少女だ。その後、ザウラーが担架
で運ばれる姿をこの目で見た俺は演技などでは無いと直感した。
 あまりの強さに銀河最強等と気恥ずかしくて名乗れない称号を与えられた彼
を一撃で仕留めた真の拳は銀河最強の拳と言って過言ではない。
 そんな真の格闘家としての才能を俺は計り知れないものと感じ取り、彼女が
格闘技をするならばそれは他の女とは違い本物と認めて良いとすら思っている。
 俺はそのつもりで調整を進めた。
「ボディがガラ空きですよ!」
 せめて一矢報いたい。そんな思いで俺が放った右フックは当然の様にと空を
切る。しっかりと狙いを定め放ったはずの拳を真が躱す気配もなかったのに何
もない空間を打つ。それはこの試合でずっと感じていたことだった。
 そこへ俺を浮かせた真の左のボディ・アッパー。衝撃の後に言い放たれた真
の言葉と共に今度は実態を持った拳が俺の腹筋に埋没し内蔵を噛み砕いていく。
 遂に放たれたザウラーを沈めた拳をその身で噛み締める俺。しかし、それだ
けの一撃を放つ素振りを真は見せなかった。それは放たれたと言うより置いて
あったと表現した方が正しいほどに。勿論、その感覚はこの一撃に限らなかっ
た。試合開始から今まで感じ続けていた事だ。
 今まで蓄積していたダメージに加えザウラーすら一撃で沈める真の拳に耐え
かねた俺は膝をつき身体を折り曲げる。その途上、一瞬だが真の表情が目に飛
び込んでくる。俺はこの状況でもその笑顔が眩しいと真剣に思った。
 スローモーションの様にマットが近づいてくる中、俺は真がこの試合中、い
や、リングに上がってから笑顔を絶やさずにいたのを思い返した。その笑顔は
俺を嘲るわけでもなく侮っているわけでもない。
 持てる技倆を全て発揮し勝敗に拘らず競い合う事が楽しくて、嬉しくてしょ
うが無いと言う純粋な笑顔。
 すぐそばに立っているはずなのに遠くから聞こえるかのような真の勝利宣言
と再戦を希望する声。その声からも笑顔と同様のものを感じた。そして、俺は
真の強さがどこから生まれてきたのか悟った。
 俺達は勝った負けた以外の事は考えない。相手を倒すことが強さの証明だと
信じている。しかし、真からはそんな気持ちを欠片も感じない。勝敗への無欲
さ故にたどり着いた境地。悟りの様なものだ。
 俺達の強さが大海を横断しようと競う合う小舟ならば真の強さは大海そのも
の。だが、大海は荒れ狂い、時に小舟を呑み込んでしまう。それでもきらめく
海原と広がる青空、照りつける太陽は美しい。
 俺は何も手出しができずに真に負けたのに完全に魅せられていた。荒れ狂う
波が真の拳ならば、それを乗り越える日が来るのか分からない。俺には真の様
に悟れないからだ。
 それでも俺は遠のく意識の中で再戦を堅く決意した。真の闘う姿は俺には美
しく魅力的だからだ。その美しさは鑑賞するものではなく肌で感じるものだと
俺は揺るぎない確信を持っていた。
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