2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

拳闘美姫

 俺の振るった拳は空を切った。打ち出し、伸びゆく拳の勢いは間違いなく相
手を射抜く。そんな確信を持った一撃だった。
 だが、対戦相手は俺の拳が進むのと等分の距離を遠ざかる。そして、俺の拳
が身体が伸びきる。俺はその直後にやってくる衝撃に備えた。続いて俺の視界
がぶれ、左の頬から肉を打つ革の音が鳴り響く。
 ヒールがマットを踏む高い靴音と僅かな衣擦れが俺の耳に届く。俺は今一度、
対戦相手を視界に捉えた。

 腰辺りまで伸びた流れるようなブロンド、その上には赤い宝石を中央部にあ
しらったティアラが鎮座している。
 視線を下ろしていくと澄んだ瞳が俺を捉えていた。更に視線を下ろしていく
と胸元が大胆に広がった純白のドレスがカクテルライトを反射し俺の網膜を刺
激する。
 対戦相手はなんと何処ぞの姫様だった。リングに上がり彼女の姿を目にした
途端、俺はそんな習慣がないのに思わず頭を垂れ、跪いてしまいそうになった。
 姫君はそんな俺を制すると、リングでは君の流儀で挨拶する様にと制してく
る。
 俺はその言葉に応えグローブを差し出した。姫君はその様子に期待通りだと
言わんばかりの笑みを浮かべてからドレスと同じ色で誂えたグローブを合わせ
てくる。

 そして、闘いの火蓋が切って落とされた。途端に姫君の雰囲気が変わる。プ
ロアスリートのそれとは違う鋭い闘志。もし、女剣士が存在するとすれば、今
の姫君のような眼差しなのだろうかとそんな場違いな思いを馳せながら、しか
し、油断なく彼女を見据える。
 ふと、姫君が滑るようにしかし、予想をはるかに超える速度で俺に接近して
きた。本能的に迎撃よりも防御を固める俺。その直後、彼女の純白のグローブ
が閃き鋭い衝撃が俺の腕に数度走り、しびれが発生する。
 姫君の持つ存在感と俺の腕に残る痺れ。俺は姫君がその華麗な姿から、想像
もつかない強者だと悟った。
 だが、俺もプロとして男として負ける訳にはいかない。いつものように相手
を打ち倒すべく、俺は持てる全てを姫君にぶつけようと今度は自分から手を出
した。

 そして、今は第3ラウンド、俺は姫君にパンチをかすめることも出来ず一方
的に打ち込まれていた。
 だが、俺は諦めてはいない。まずはジャブで距離を測り今日、何度も試みた
仕切り直しを図ろうとする。
 そんな俺の鼻孔を女性独特の甘い香りと高価な香水が入り混じった心地良い
芳香が刺激する。その直後に重い衝撃が、内蔵を鷲掴みにされたような苦しさ
が俺を襲う。
 俺の身体が、意志に関係なく折れ曲がり視界に姫君のグローブが手首ほどま
で俺の腹部に抉りこまれてる光景が飛び込んできた。
 その様子に、俺の身体から一気に力が抜けていくのを感じる。
 姫君が俺の腹部から拳を引き抜くと俺は崩れ落ちた。レフェリーのカウント
が俺の脳内に響き渡る。
 増えていくカウントに俺は抗いながらゆっくりと立ち上がった。
 そして、ファイティングポーズを取り姫君へとまだ戦えると言う意志をぶつ
ける。
 
 レフェリーによって試合再開が告げられた。
 姫君は俺の闘志に応えるべく一気に間合いを詰めてきた。そして白い稲妻の
様に姫君のグローブが次々と疾走った。
 頭部を捉える姫君の拳に顎を頬を打ち抜かれ脳が激しく揺れ、腹部に打ち込
まれる姫君の拳に胃や肝臓、腎臓等の内臓が強い衝撃で押しつぶされていく。
 俺の闘志とスタミナは一気に奪われ膝がガクガクと震えはじめた。更に姫君
のラッシュは続く。
 だが、俺はそんな中でも必死に拳を固めようと試みた。遂に姫君のラッシュ
が途切れる。俺はフラつきながら数歩、後退した。
 そして、必死に踏みとどまる。俺の視界には姫君の姿が二重三重に映ってい
た。俺はその中の一つに最後の力を振り絞り渾身の左フックを放った。
 だが、俺の拳には全く手応えがない。そして俺の空振りに終わった拳の影か
ら姫君の右のグローブが俺の顎を打ちぬいた。
 
 俺は必死に踏みとどまろうとしたが身体は俺の意思を無視し、膝から崩れ落
ちる。レフェリーのテンカウントが始まッタ。俺はなんとか立ち上がろうと試
みるが四つん這いになった状態から体が全く動かない。
「勝敗の決め手は…覚悟の差だったようですね」
 姫君はダウンする俺に語りかけてくる。
「このような姿で戦いに臨んだのは何時、敵が現れ自分の身を自分で守らなけ
ればならない事態に陥るかわからない、そのような気持ちからです」
 穏やかにしかし力強く姫君は言葉を続ける。
「そして、拳闘は本来、殺し合いだったと聞きます。貴方は私を倒すつもりで
戦っていたようですが、私は貴方を殺す位の覚悟で戦っていました。それが、
この結果なのです」
 姫君は相変わらず静かな口調でそう語ってから踵を返した。
 俺は姫君の言葉に、闘いの中でも優雅な笑みを絶やさなかった彼女の姿に、
恐怖を感じざるを得なかった。それと同時に俺には姫君の様に覚悟を決めるこ
とが出来ない事実に、精神力の差がこれだけの埋めがたい実力差が発生するこ
とに完全に打ちひしがれていた。

姫様ボクサー
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ