2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ドリーム・ファイト・クラブ3

 こんなふざけた格好の女に負けるのか…
 俺は耳鳴りに苛まれ視界はぼやけていた。足元も覚束ず、身体はも重い。腕
も力が入らずグローブがまるで重たいダンベルのような錯覚を覚えていた。
 そんな俺の視界を黒い塊が覆い尽くす。二発、三発とまっすぐ鋭く伸びてく
る女のジャブ。女の大きめのグローブが俺の頭部をしっかりと銜え込み衝撃が
四方八方から俺の脳を揺さぶられ、派手に揺れた。
「ハンデのつもりだったんですけど、逆効果だったみたいですね~」
 女は微笑みながらジャブを続ける。俺は女のジャブを食らい続け、まとまり
のない思考の中、正にその通りだったと感じた。
 筋力や体重があってもフォームが半端なら強いパンチは打てない。女はその
フォームで筋力の弱さと体重の軽さを完璧どころか十二分に補っていた。その
細身から打ち出されるパンチは鋭く、しかも重い。俺が過去に闘ってきた男達
すらまだまだ、フォームに改善の余地があると感じさせる程のものだった。
 そして、女の拳を覆う大きめのグローブが俺の頭部を腹部を捉えるたびに、
変形し、俺の肉体に噛み付き、衝撃をあらゆる方向から脳へ、内臓へと送り込
み、乱反射させダメージを増大させていた。
 更に女のテクニックはパンチ以外も本物だった。俺のパンチを逸らし掻い潜
るディフェンス。死角へ回り込み俺を追い詰め、あるいは女が最も有利な距離
を保つフットワーク。俺の動きを見極めカウンターを的確に打ち出してくる目
と勘。

 序盤は俺の死角へと回りこみ、カウンターをあわせ徐々に俺からスタミナを
奪っていった女は、今や真正面から俺をサンドバッグでも打つかのように殴り
つけてくる。俺は今まで完璧に女の実力に圧倒され、俺が倒れるまで女に圧倒
され続けることを悟った。
 俺は強い者と闘えれば本懐、勝てれば幸運と思い闘い続けてきた。その欲の
無さが意外なほどに俺の躍進を支えてきた。だが、俺は今、狂おしいまでにこ
の女に勝ちたいという思いに駆られている。もっとも、それはもう叶わぬ思い
だと思い知らされていた。

 女の拳が俺の身体へ頭部へと容赦なく叩きこまれ、ついに立つことすらまま
ならなくなってきた。俺の身体が前のめりに傾ぐ。そこへ女の強烈な左フック
が顔面へと炸裂した。
 一瞬、女の表情が俺の視界の隅に映る。頬を上気させ気持ちよさそうな笑顔
を浮かべていた。それは俺を弄び愉悦に浸っていたものではない。拳に伝わる
相手を確実に仕留めた感触に歓喜に震えている、そんな表情だ。
 俺を支配していた勝利への貪欲な思いが一気に吹き飛んだ。圧倒的な体格差
を覆し終始、俺を圧倒し続けての勝利。自分の実力を証明した証をその拳で実
感した喜びが生み出す自然な表情に、この女もまた俺と同じように強者と闘う
ことを本懐としていたのだ。あの挑発的な態度は俺を奮起させるための演技だ
と俺は確信した。

 この女に負けるなら、この女の実力に屈するのなら、俺は満足だ。そんな思
いとともに俺は浮遊感を味わっていた。
 俺は女の言葉に応えるために再戦を挑む決意を固める。それと同時に次は女
がどんな姿で俺の前に立つのか、そんな思いが込み上げてくる。
 出来ればしっかりとしたリングコスチュームでボクサーとして俺の前に立っ
てほしい。だが、それ以外にも様々な衣装に身を包んだ女の姿が脳裏に浮かん
では消えていく。バニーガール、コンパニオン、婦警…軍服姿も悪くはない。
 女の様々な姿に思いを馳せ、うつ伏せに倒れたリングの上で俺は仰向けにな
る眩しいカクテルライトの輝きが万華鏡の様に俺の視界を回り続け、遠くでカ
ウントらしき声が聞こえる。その間も俺は女にどんな衣装が似合うのかを想像
し続けた。
 やがて、試合終了を告げるゴングが僅かに聞こえる。それはまるで遠い世界
の出来事のようだった。俺は女の強さと美しさに魅入られていた。

ドリームファイトクラブ
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ