2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

無謀な挑戦

 ボクシング部長である村田竜二は部室のリングの上で対戦相手を待っていた。
対戦相手はクラスメイトでありグラビアアイドルでもある双葉理保。
 竜二には近頃の理保の行動が目障りだった。事の発端はつい先日発売された
月刊少年誌のグラビア。理保がボクシンググローブにトレードマークの水色の
ビキニと言う姿でサンドバッグを叩いたり、リングに寝そべる姿が写し出され
ていた。
 理保の巨乳とセクシーな肢体に不似合いなボクシンググローブ。それは年頃
の少年である竜二を十分に惹きつけるものだった。無論、校内でもそのグラビ
アは話題になっている。
 しかし、その後の理保の言動が彼の癇に障った。
「実はこの撮影の後、ボクシングにハマっちゃったんだよね~」
 そう言いながら群がる男子の前でパンチを打つ真似をしてみせる。そして、
理保を囲む男子から上がる黄色い歓声。その様子が、アマチュアボクシングの
大会で何度も優勝を果たし、将来はプロへの転向も考えている竜二にボクシン
グを舐めているとしか感じられなかった。
 そこで竜二は理保に少しばかり灸を据えてやろうと考えた。竜二は理保の周
りから他の男子がいなくなった頃を見計らい、彼女へ「君の動きをもっとよく
見てみたい」と誘いを掛けた。
 その言葉に理保は疑いもなく頷く。理保はスケジュールの空いてる日に部室
へ行くと応えた。拍子抜けするほど自分の計画が上手くいきそうな竜二は内心
でほくそ笑む。しかし、竜二は理保の瞳の奥が不敵に輝くのを見逃していた。

 竜二はコーナーポストに向かいシャドウボクシングをしていると背後から、
リングへと人が上がって来る気配を感じる。竜二が振り向くとそこにはグラビ
アと同じ格好の理保の姿があった。
 竜二の頭がこの女はどこまでボクシングを舐めてるのかとカッと熱くなる。
「お前、ボクシングを舐めてるだろう?今日は、少し痛い目にあうかもな」
 ドスの利いた声で竜二がそう言う。しかし、理保は舌を出してグローブのま
ま器用に下瞼を引っ張りアカンベェをする。
「村田君こそ、理保のこと舐めてるよね~。後悔しちゃうぞ」
 理保が竜二の脅しに対して戯けて応えると威嚇するようにシャドウボクシン
グを始めた。その鋭い動きに竜二は舌打ちをする。
 竜二の予想以上に理保はしっかりとトレーニングを積んでいる様だと感じた
からだ。そこで理保の身体に変化が起きた。肩、腕、太腿、背中、いたるとこ
ろの筋肉が隆起し、腹筋に溝が彫り込まれていく。
 人がモンスターへと変化していく映画のワンシーンを思わせる光景に竜二は
思わず息を呑んだ。そして、理保がシャドウを終えた頃、その変化は収まった。
 理保の腕も太腿、身体の全てが美術の時間に見たギリシャ彫刻を遥かに上回
る鍛え抜かれた筋肉に覆われていた。
 変わらないのは顔と理保自慢の巨乳のみ。腕の太さも太腿も太さも竜二の二
倍はあろうかという逞しさ。身体の厚みも竜二の1.5倍は優に有りそうな圧
倒的な筋肉量。
「ちょっと、油断すると直ぐにこうなっちゃうんだよね~。撮影の時は凄く疲
れちゃうんだ。でも、今日はそんな心配いらないしね」
 そう言いながら理保は鍛え抜かれた筋肉を誇示するように力こぶを作ってみ
せた。その表情には不敵な笑みが浮かんでいる。
「力だけじゃ、俺には勝てないぜ」
 理保が肉体を誇示する様子に竜二は所詮、彼女のボクシングは鋭い動きはし
ていたが結局は力任せのに押してくるだけと判断し、不遜にそう言い放った。

 竜二がファイティングポーズを取り、リズミカルにフットワークを始めた。
対する理保は余裕の表情でゆっくりとファイティングポーズを取る。
 しかし、その頃には竜二が理保の眼前にまで迫ってきていた。竜二がフット
ワークを駆使し、右に左に理保を翻弄すると素早くワンツーを彼女の顔へ目掛
け放った。理保はそれをガードする。
 ガラ空きになった理保のボディ。竜二はその鍛え抜かれた腹筋へと目掛けボ
ディ・アッパーを突き立てようとする。会心の打撃音。竜二はこれなら行ける
と更に左右の拳をピストンの様に激しく突き出していった
 2発、3発、4発、快音が幾度も幾度も響き渡るが理保は微動だにしない。
心地良い音の割りには竜二の拳に伝わってくるのは理保の腹筋に拳が押し戻さ
れる感触。
 理保の鍛えられた強靭かつ柔軟な筋肉は完璧な衝撃吸収材となっていた。理
保は鼻歌でも歌い出しかねない余裕の表情を浮かべ、必至の形相で自分の腹筋
を打ち続ける竜二を眺めていた。
「そんなの全然、効かないよ~。それじゃ、今度は理保の番だね~」
 目の前で必死に拳を振るう竜二に対し、何事もなかったかのように理保は左
ジャブを繰り出した。竜二は理保の宣言に急いで間合いを取りなおす。今まで
竜二の頭部があった空間を理保の拳が鋭く切り裂いた。
 理保は竜二を追わずに突き出した左の拳を収める。竜二は間合いを取りなが
ら呼吸を整えようと試みた。
 そこへ、ファイティングポーズを取ったまま、ただ、竜二と対峙していた理
保がフットワークを取り始める。そして、理保は一気に動き始めた。
 理保は竜二を遥かに凌駕する速さで、彼をフットワークで翻弄しようと試み
る。竜二はその動きに必死に付いて行こうとしたが、遂に追いきれず彼の視界
から理保が消えた。
 理保は竜二の死角から軽く、しかし、鋭い左ジャブを再び繰り出した。それ
は何にも妨げられること無く竜二の顔面へと吸い込まれていった。
 竜二はまるで、強烈なストレートを食らったかの様によろめき足をもつれさ
せながらロープへともたれかかった。竜二はヘッドギアを着けていたにも関わ
らず意識が飛んだ。そして、意識がはっきりとしないながらも片方の脇にトッ
プロープを挟み、その逆側の手でグローブ越しにロープを掴む。
 

「これってスタンディング・ダウンだよね~。1・2・3」
 ロープにもたれかかる竜二を挑発するような口調で理保はカウントを始める。
その速度は正式なカウントの速さに比べると倍以上の時間が費やされていた。
 歯を食いしばり、ロープから離れファイティングポーズを取る竜二。理保の
カウントは9を数えたところだった。
 だが、理保のゆっくりとしたカウントのお陰で竜二は意識を完全に取り戻し
ていた。呼吸も戻り体力も回復している。
 竜二は理保の自分をあまりにも舐めきったカウントに今まで、表に出してな
かった怒りを完全に露わにしていた。
 猛烈な勢いで竜二は理保へと突き進み始める。対する理保は不敵な笑みを浮
かべ竜二を待ち受けた。
 怒りに任せ竜二が次々と拳を振りかざし、理保へと向かい突き出す。だが、
その動きには無駄がない。最短の距離で最も素早く理保へと向け突き進む。
 理保は再び、その攻撃を身体で受け止める事はせず、卓越したディフェンス
を以って紙一重でかわし続けた。
 そんな理保に対し竜二の攻撃は加速していく。しかし、理保の筋肉が生み出
すスピードは竜二を一切寄せ付けようとしない。それどころか理保の動きも加
速していった。
 遂に竜二の視界から理保が消えると、彼の死角から彼女は最初の一撃がまる
でスローモーションだったかのような更に鋭いジャブを繰り出した。再び、竜
二の顔面をクリーンに捉える理保の拳、よろめく竜二。
 だが、竜二は過剰に分泌されたアドレナリンの興奮状態により、後退はした
ものの直ぐに体勢を立て直した。そこへ理保が一直線に突き進む。竜二はそれ
を迎撃しようと拳を振るったが、それは空を切る。
 理保の姿は竜二の視界にはない。また、竜二の死角から理保のジャブが彼に
襲いかかる。またしてもふらつく竜二。更に理保の追撃。
 死角からの理保のジャブでよろめく竜二。すぐさま、体制を立て直す竜二と
彼へ突き進む理保。反撃を繰り出すが虚しく空振りをする竜二。
 そんな、光景が幾度と無く繰り返されるが、やがて竜二の反撃の手が全く無
くなった。
 理保が竜二の死角からジャブでぐらつかせ、また彼の死角へと周り込みジャ
ブを繰り出す。そんな状態が、延々と続く。
 その様子は、舞うが如き華麗さを持っていた。更に理保の躍動する筋肉と弾
む巨乳が、その美しさを際立たせる。そこにはグラビアを飾る姿とは別の華や
かさがあった。
 圧倒的な筋肉を誇る美少女ボクサー、双葉理保、それが今の理保の姿だった。

 最早、どちらが相手の力量を見誤っていたかは明白だった。
 竜二は優れたボクサーではあるがスピードもパワーもテクニックも理保には
遠く及ばない。
 理保の華麗なフットワークと流麗なジャブの前に竜二はただ、ひたすら無様
な舞踏を続ける。
 理保を最新鋭のジェット戦闘機に例えるなら、竜二は時代遅れのレシプロ戦
闘機だった。理保の屈強な肉体は高出力のジェットエンジンであり、その肉体
をコントロールする理保の実力は電子制御システムそのものだった。無論、理
保の筋肉は最新テクノロジーで精錬された合金。
 そんな理保の前には竜二の筋肉は理保の半分にも満たない出力のレシプロエ
ンジン、身体のコントロール能力は操縦桿も同然だった。いくら鍛えていると
はいえ、竜二の身体は理保のパンチを防ぎ用もない旧世代の合金。
 竜二が立っていられるのは理保のジャブはミサイルですら無く音速で飛ぶこ
とにより発生する衝撃波で煽っているようなものだったからだ。
 だが、それも時間の問題でしかない。音速で飛ぶことを設計されてない旧世
代の戦闘機にそれが耐えられるはずもないからだ。
 しかし、終焉の時はすぐそこに迫っていた。
「このまま続けてても弱い者いじめみたいだからやだな~。直ぐに勝負を決め
てあげる」
 理保はジャブとフットワークで竜二を弄ぶのに飽きてきたのか、そう宣言を
した。それから、ジャブをもう一発放ち竜二がフラフラと向かう先で待ち受け
る。
 そして、竜二の腹部へと目掛け右のボディアッパーを繰り出した。その拳は
竜二の腹部へと深々とめり込む。竜二のシューズがリングから離れ肺から圧搾
空気のように一気に吹き出した。
 理保の拳は勢いを失うこともなく更に加速し、竜二の身体が彼女の振り上げ
るアッパーに合わせ宙に浮いていく。それが理保の頭部程の高さへと達した時、
竜二は内蔵を直接握りしめられる様な圧迫感に耐え切れず、大量の唾液ととも
にマウスピースを吐き出した。

真・ラブアッパー

 理保がその拳を一気に引き抜くと竜二は重力に身を委ねる。落下する竜二に
対し理保は更に左の拳をフックとアッパーの中間軌道を描き容赦なく振り上げ
た。
 竜二のヘッドギアに保護された頭部と理保の拳が激突する。竜二は錐揉み状
に回転しながら弧を描き、そして、リングへと叩きつけられた。更に2度、3
度とバウンドする。
 理保の圧倒的なパワーがもたらした勢いはそれでも、削げなかった。竜二は
リングの上を何度も寝返りをうつように転がっていく。やがて、回転する力は
失われたが竜二はうつ伏せのままリングの外へ頭を向けながら滑り始めた。
 そして、リングから上半身をだらしなく垂れ下げた所で止まった。意識は全
くないが、激しく痙攣を繰り返している。
「これでも手加減したんだよね~。弱い人と闘ってもつまんないよ~」
 そう言うと理保はまだまだ打ち足りないというようにグローブを力いっぱい
打合せながら部室内を見回した。
 新品の数本のサンドバッグが理保の目に止まり、目を輝かせる。
「もうちょっと遊んでから帰るね~」
 未だ、痙攣を繰り返す竜二に聞こえるわけもないのに理保は断りを入れてか
らリングを降り、サンドバッグを叩きはじめた。
 理保はサンドバッグが対戦相手と想定し、リングの上で見せたフットワーク
を上回る速さと華麗さでその周りを移動しながら様々な角度でパンチを叩きこ
んでいく。
 サンドバッグを打つ見事な快音はこのボクシング部の誰もが発した事のない
ものだった。そして、その打撃音はやはりボクシング部の誰もが発することの
出来ない激しいものへと変わっていった。
 日も暮れ竜二が激しい頭痛とともに目を覚ます。そこに理保の姿はなかった。
あるのは今年、部費で購入したばかりの真新しいサンドバッグが全て裂け使い
古しと言う言葉では形容出来ない有様になっていた。
 それは誰かが悪戯で切り裂いたものではなく、明らかに強力なパンチで突き
破られた事を物語っている。そして、それを行なっていた者として思い当たる
のは理保以外に存在しなかった。
 竜二はサンドバッグの惨状を目の当たりにして、理保がどれほど手加減して
いたのかを思い知り震え上がった。
 もし、理保が本気で自分を殴っていたら自分も、このサンドバッグと同じ運
命を辿っていただろうと。
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ