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Home Ground (3)

リングアナウンサーを自認する若者は今度はレフェリーという役割を演じ始め
た。
若者がカウントを取る中、意識を戻したワタナベが感じたのは痛みだった。そ
れはプロレスの中では味わった事のない異質のもの。
しかし、ワタナベは慣れない痛みに耐えながら立ち上がり、ファイティングポ
ーズをとる。その姿は先程より硬くぎこちなかった。
じりじりと間合いを詰める二人。先に動いたのはワタナベだった。
キャンディの打撃の間合いに入る前に相手を抑え込もうとタックルを仕掛ける
ワタナベ。しかし、それはキャンディのローキックでダメージを受けた左足の
踏ん張りが効かず中途半端に終わる。そんな力ないタックルをワタナベの左脇
に回り込みながらキャンディはかわす。そして、キャンディは無防備なワタナ
ベの腹部へ膝が突き上げた。それは綺麗に鳩尾を捉える。
あまりの苦痛と衝撃に身体をくの字に曲げるワタナベ。キャンディはその襟首
を掴み上半身を押さえ込むと連続で膝蹴りを喰らわせた。
その膝蹴りは胃と鳩尾を交互に捉えワタナベに更なる責め苦を与えた。
散々、内臓を掻き回されたワタナベは遂に血と吐瀉物の入り交じった液体を吐
き出し膝を付く。その瞬間、ワタナベの中で何かが弾け飛んだ。キャンディは
そんなワタナベの胸倉を左手で掴み自分へと顔を向けさせる。
ワタナベの顔は苦痛と恐怖で歪んでいた。しかし、その表情には何か違和感が
あった。キャンディはその違和感が危険な前兆だと判断し右拳を振り下ろした。
そして、その判断は正しかった。ワタナベは胸倉を掴んでいるキャンディの股
間へ目掛け拳を突き上げようとしていた。
キャンディの拳はワタナベの拳が目標に到達するよりも早く鼻梁を潰し、後頭
部を硬いコンクリートに叩付けた。
その様子にレフェリーとなった若者はダウンを告げなかった。それはこの瞬間
に闘いのルールが変わったという無言の宣告。その様子にこの場に集う若者達
の間に緊張が走った。

キャンディはワタナベから距離をとり、彼を中心に円を描きながら歩き始めた。
「いつまで寝たふりしてるんだ?」
緩めたネクタイを解き右手に丁寧に巻き付けてからキャンディはワタナベに問
いかけた。キャンディは今までの頭部へのダメージとワタナベの耐久力、叩付
けられてから経過した時間を考え、意識はあると判断し侮蔑の言葉を投げ始め
た。
「判ってるんだぜ、テメェが何をしようとしているのか。マジで伸びてるのか
確かめようとしたらさっきみたいに来るんだろ」
しかし、キャンディのその言葉にワタナベは動かなかった。しかし、キャンディ
には確信があった。ワタナベの顔面に拳を振り下ろす直前、キャンディは彼の
苦痛と恐怖に歪む表情の裏に隠されたものを読み取っていた。
その目はまだ死んでおらず、矜持をすて、卑怯者と罵られようと勝つ事を決意
した目だった。無論、このまま止めを刺す事はキャンディには難しい事ではな
い。相手が何をしてくるか、その手の内が読めている。
しかし、キャンディはそうしようとはしなかった。今、キャンディは久しく眠っ
ていた激情が沸いていた。
それは自分に向かってくる相手を徹底的に叩き潰すと言うものだった。そして、
それはキャンディにとって最も魂が震える瞬間だった。

しかし、キャンディはそんな激情に完全に支配されず冷静さを保ち続けている。
キャンディはワタナベが動く瞬間を待っていた。
「OK。ワタシが怖いんだろ?」
キャンディはリングの上で行うマイクアピールとは違い静かな口調でそう言う。
「しょうがねぇよな。手も足も出ねぇし、このまま寝てた方がこれ以上、恥を
かかねぇで済む」
更に静かに言葉を続けるキャンディ。それは静かな分、重みがあった。
「終りにしようぜ、アタシも退屈してきたところだ。こんなのに比べたらうち
の連中とやっていた方がおもしれぇ」
キャンディは最後にそう力強く言う。今まで静かに話していた分、それはより
強く聞こえた。しかし、ワタナベはそれでも動かなかった。
そんなワタナベに対しキャンディは背を向け歩き出す。その瞬間、ワタナベは
動き出した。キャンディの放ったランブルローズのレスラーと闘っている方が
面白いと言う言葉に怒り、痛みも忘れ彼女の背を目掛け走るワタナベ。これこ
そがキャンディが待ち望んでいた瞬間だった。
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