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Home Ground (2)

「ああ、また会えたね」
ワタナベは平静を装いキャンディと出会った夜と同じように気障な口調で応え
た。キャンディはそんなワタナベの表情、声音から内心を読み取る。
「あの時みたいには行かねぇって顔してるぜ」
ワタナベの表情に僅かな強張りを見つけ、キャンディは相変わらず楽しそうな
口調でワタナベに問いかける。
「そうだ、その通りさ。そう言う君はずいぶん楽しそうだね」
キャンディの問いかけに強い口調で応え、逆に問いかけるワタナベ。その言葉
にキャンディは獰猛で好戦的な笑みを浮かべる。
「当たり前だろ?あんなラッキーパンチでワタシは満足できないんだよ。今日
こそ楽しませて貰うぜ」
キャンディの表情、言葉には自信が満ちあふれていた。それは何の裏付けもな
い自信では無い事をワタナベは感じた。
ワタナベを倒した一撃をラッキーパンチと言い切るだけの実力。それを判って
いながら体格に勝る相手に闘いを挑む胆力。
ワタナベはこの闘いは一筋縄ではいかないと感じた。
そんな二人のやり取りをよそに先ほどまでリングアナウンサーを気取っていた
若者とギャラリーの間で掛け金の受け渡しが行われている。二人はそんなやり
取りが目に入らないと言った様子で闘いを始めた。
ワタナベは適当な右構えのファイティングポーズを取る。それはこの場にいる
若者達が見よう見まねで行う稚拙なものとそれ程変わらなかった。それに対し
キャンディは左構えでアップライトスタイルの様なファイティングポーズを取
る。更に常にワタナベの左側を取るようにポジショニングした。
そこから、キャンディは前にした右足で鋭いローキックを放つ。それはプロレ
スの様な魅せ技ではない本格的なものだった。そんなローキックに対しプロレ
ス以外は喧嘩程度の経験しかないワタナベが戸惑う。
そんな戸惑いをよそにキャンディは次々とローキックを打ち出した。そのロー
キックには時折、力の乗る左足でのワタナベの足を掬うようなローキックも含
まれていた。

ワタナベは知識として臑でブロックすると言う事は知っていた。しかし、実際
に鋭いローキックを目の当たりにすると付け焼刃では何も出来ないと言うこと
を悟る。
次々とキャンディのローキックはワタナベの足に吸い込まれた。ダメージ覚悟
で前進して、体格差を活かしキャンディに組み付くと言う手も考えたが彼女は
それに対する対応ぐらい用意しているだろう。ワタナベは下手な事をするより
後退した方が良いと判断し、キャンディのローキックの制空権から逃れようと
した。
しかし、キャンディはその行動を読んで射程の長いミドルキックに切り替える。
キャンディの左ミドルキックは無防備だったワタナベの脇腹を捉え、肝臓に衝
撃を与えた。その衝撃はワタナベの筋肉によって和らげられたが、それでもワ
タナベの動きを鈍らせるには十分だった。
そんなワタナベに今度は右のミドルキックを放つキャンディ。それはワタナベ
の腹部を臑で正面から捉えた。
胃と腎臓を同時に抉られ苦痛のあまりにうめき声を上げるワタナベ。そんなワ
タナベに対しキャンディは容赦なく、左右のミドルキックを連発しワタナベの
内臓を攪拌した。

ワタナベは何とかキャンディの蹴りを防御しようとしたが、慣れない闘いに身
体が思う様に動かなかった。
遂にキャンディのボディへの徹底的な攻撃に耐えられず顎を下げるワタナベ。
そこへキャンディは左足で蹴り上げた。硬い踵がアッパーの様にワタナベの顎
を打ち抜き脳を揺さぶる。
その衝撃にワタナベは仰け反った。だが、キャンディの攻撃はそこで止まらな
い。今度は振り上げた足をワタナベの胸へと目掛け勢い良く振り下ろす。それ
はドラゴンの顎がワタナベを噛砕かんとする様を想像させた。
キャンディの踵がワタナベの胸に襲いかかる。その一撃は心臓に強烈な衝撃を
与えると同時に胸部を圧迫した。
ワタナベの肺が潰れ、一気に酸素を放出する。立て続けに急所を攻められたワ
タナベの身体機能は遂に麻痺し膝が落ちた。
しかし、キャンディの攻撃はまだ止まらない。ワタナベの側頭部、目掛け右の
ハイキックを放つキャンディ。その一撃は再びワタナベの脳を揺さぶり、意識
を飛ばした。
崩れ落ちるワタナベ。その様子にギャラリーが一気に沸き立った。

キャンディにとって格闘は最も知的で最高の娯楽だった。
ランブルローズと言う活躍の場を得るまで喧嘩にストリート・ファイトに明け
暮れる日々を送っていたキャンディ。そんな日々でキャンディは勝つ為には何
をすべきかを学んでいった。
気が付けばキャンディは自分より体格に勝る相手に倒す実力を身に付けていた。
相手の癖を読み、技を読み、闘いを組み立てる頭脳。自分の手足に伝わる打撃
の感触、相手の表情、呼吸、その他、様々な情報から相手へのダメージを推測
し最も効果的な攻撃を繋げていく。それこそがキャンディの最も得意とする闘
いだった。
そして、この闘いもそんなキャンディの頭脳が活かされていた。体格差を埋め
る為、攻撃の土台と移動の要となる脚を破壊するセオリー通りの下段、相手の
スタミナを奪い頭を下げるための中段、満を持しての頭部への打撃、徹底的な
急所への攻撃、相手の防御の稚拙さを読み取った大胆なラッシュ。
その全てはキャンディの計算下に置かれていた。
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