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Home Ground (1)

とあるダウンタウンのバスケットボールコートに人の輪ができていた。
昼間は本来の目的で利用されるそこは夜になると本来の用途とは別の目的で訪
れる若者が多かった。それはストリートファイト。
何時、誰が始めたかは誰もが知らない。気が付けば、金のため、自分のプライ
ドのため、様々な目的の若者が集まり定期的にそれが行われるようになってい
た。
その輪の中心で一人の若者がリングアナウンサーを気取り、ある人物の名を呼
び上げる。その名を聞いた若者達の間に驚きの声が上がった。
その名は、キャンディ・ケイン。ランブルローズの看板レスラーであり、この
街では未だに破られる事の無い連勝記録と不敗を誇る伝説的な存在だった。
対戦相手を募る若者のそばで腕を組み足を肩幅に広げ立つキャンディ。白い半
袖のブラウスに赤いネクタイ、赤と黒を基調としたチェックのミニスカート、
足下には黒いローファー。
この界隈では珍しいスクールウェアと紅く染め上げた髪をツインテールに纏め
た、その姿はこの場にいる者は知らない者が居なかった。

最強の座に挑戦する者は居ないかと若者はあおり立てる。しかし、普段は無鉄
砲な闘いを挑む者達ですら名乗りを上げなかった。
彼らの取ってキャンディの存在感は強大すぎた。まるで、学校帰りに遊びに行
く様な格好で立つキャンディは喧嘩に強い程度のものではない、本当の修羅場
を幾度もくぐり抜けてきた者の風格を漂わせている。
もしや、キャンディの闘いが見られるのではないかと期待していた者が落胆し
た時、一人の男が名乗り出た。その男はここに集まる若者とは明らかに異質の
存在だった。
「よう、また会ったな」
その男を見た瞬間キャンディはネクタイを緩めると、これ以上、面白い事はな
いと言った口調で男に話しかけた。
男はリングネームをワタナベと言うある有名男子団体に長期遠征に来ていた日
本人レスラーだった。そして、日本ではジュニアヘビー級のエースと呼ばれ、
遠征先の団体でも常に人気上位のレスラーである。

キャンディの言葉でワタナベはある夜のこと思い出した。
ひとたびリングを降りればプレイボーイとして知られるワタナベは遠征先でも
日本に居た時と同じ様に一夜を共にする女性を求めていた。レスラーとして小
柄とは言え日本人離れした面立ちと鍛え上げられた肉体、そして流暢な英語に
よって、ワタナベは様々な人種の女性を幾人もものにしていった。
そしてその夜、ワタナベが目をつけたのがオフを満喫したキャンディだった。
リングやステージでは髪を真っ赤に染め上げパンクファッションに身を包むキャ
ンディだが、その日は髪は地の色である金髪で着衣も街角で見かける十代後半
の女性らしい服装で周囲に溶け込んでいた。
ワタナベはそんな姿のキャンディを一般人だと思い、気障な言葉で囁きかける。
素顔でもナンパされる事も少なくないキャンディは大して興味も示さなかった。
しかしワタナベの顔を見た瞬間にその正体に気付き一寸した悪戯を思いつく。

キャンディはワタナベの頬を目掛けて拳を振るった。不意打ちと言う事もあり
ワタナベの反応は鈍くキャンディのパンチはワタナベの顔面を綺麗に捉える。
それは奇しくもタイミング、角度等の様々な要素において最高とも言えるパン
チだった。キャンディの拳に当たったと言うよりはも何かを貫いたと表現が相
応しい感触が伝わる。
一方、ワタナベは痛覚より意識をどこかへとばされるような感覚に見舞われて
いた。それはスリーパーなどで綺麗に落とされる感覚と似ていた。
キャンディの一撃で崩れ落ちるワタナベ。意識が朦朧としぼやけた視界に自分
を見下ろすキャンディの姿が映る。
「ゴメンね、わたしのパンチをかわせない様な人とは付き合えないの」
悪戯っ子の笑みを浮かべ余所行きの口調でキャンディはそう告げると立ち去っ
た。

事は公にはならなかったがワタナベには許し難い出来事だった。不意打ちで女
子レスラーが相手とは言え女に殴り倒されたと言う事実。
それはワタナベのプライドをひどく傷つけ、何とかしてあの女より自分が強い
と言う事を証明しなければならないと考えた。
しかし、自分から試合を申し込めば探られたくもない腹を探られかねない。ど
うするべきか考えあぐねたワタナベはこの夜、気晴らしに抱く女を求めて街を
彷徨っていた。
そんなワタナベの視界にキャンディの姿が飛び込んでくる。ワタナベはキャン
ディの後をつける事にした。
その結果、辿り着いたのがこの場だった。キャンディの名が呼ばれ対戦者が募
られる。しかし、その声に名乗りを上げる者は誰もいない。
ワタナベはこれ以上の好機はないと心中でほくそ笑み名乗りを上げた。
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