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BOXER M@STER(後編)

青年がよろめき後退する。少女は更にたたみ掛けた。
左右のボディブローの連打で少女は青年の内臓を抉る。その連打で青年の顎が
下がった。
少女は躊躇わずその顎を右のアッパーで打ち上げ、更に少女の左右のフックが
青年に追い打ちをかける。短時間で一気に脳への衝撃を受けた青年は崩れる様
にダウンした。すかさず、カウントを取るトレーナー。
トレーナーは横目でちらりとニュートラルコーナーで待機する少女を見た。そ
こにはファイティングポーズは解いているものの油断無く佇んでいる少女の姿
があった。
カウントを取りながらトレーナーは少女の強さを分析した。ボクサーとしての
経験は青年の方が上だ。しかし、少女は幼い頃から実戦空手で大会出場と優勝
経験を持っている。
格闘家としての経験は少女の方が上だ。この闘いで見せた少女と青年の差はそ
れだと確信した。そして、華奢な身体からは想像も出来ない強打を打ち出すの
はその経験で培った身体コントロール能力と長年、身体を動かしてきた事によ
り見た目よりも鍛えられている筋力の賜物だと。
そんな分析を終えたところでカウントが8に達した。青年が立ち上がりファイ
ティングポーズを取る。
トレーナーは試合再開を告げた。

少女は立ち上がる青年が一瞬、苦しそうな表情を浮かべたのを見逃さなかった。
これからが勝負所だと少女は自分に言い聞かせた。
試合の流れは自分にある。だが、ちょっとしたミスで流れが変わる事を少女は
良く知っていた。
それはトレーナーの分析通り少女が空手で数多くの試合を経験し、見てきたか
らこそ判る事だった。
少女は油断無く青年との間合いを計りながら時折、牽制のジャブを放つ。それ
に対し青年は過剰な反応を見せず冷静に対応した。
ダウンを奪われダメージも追っているはずなのに、焦りを見せない青年。そん
な青年に少女は探りを入れた。
青年のパンチに警戒しながら少女はコンビネーションを放つ。
ジャブ、ストレート、フック、アッパー。全てのパンチを不規則に織り交ぜK
Oは狙わず、コンパクトな振りでパンチを上下に散らす。
更に反撃を警戒し、2~3発のパンチを打ち込んではヒットアンドアウェイを
繰り返した。

青年はそれらのパンチに防御に徹した。ガードが間に合わなければ打点をずら
す事によりダメージを抑える。青年は少女が勝負に出る瞬間を待っていた。
そこで全てを賭けたパンチを放つ。自分の経験では少女の経験を突き崩す事が
出来ない。そう判断した青年はもっとも隙が生まれるその瞬間を待っていた。
そして、少女も青年の狙いに気付いた。少女は自分が青年を嬲っているかの様
な戦術を嫌いそれに乗った。
一気に間合いを詰める少女。青年は少女に対し渾身の右ストレートを放った。
だが、それは空を切る。少女は踏み込みながら青年の動きを読み取り深くかが
み込んでいた。
マットを思い切り蹴り、撓めた全身を一気に解放する少女。その力は少女の右
の拳に集約され青年の顎を打ち抜いた。
その瞬間、少女の拳に異様な感触が伝わる。それは青年の下顎を破壊した感触
だと少女は直感した。
マウスピースと鮮血が青年の口から勢い良く吹き出る。そして、青年は大の字
に倒れた。
それは誰の目から見てもカウントが必要とは思えない光景だった。

試合後、少女はしばらく塞ぎ込んだままだった。格闘技に怪我はつきものだと
少女は理解していた。
練習中、試合中、時を問わず何が起きるか判らないし、自分も相手もそれを承
知している。こぶや痣等は数え切れない程、経験してきた。
だが、自分の拳に残る感触にはそんな経験も理屈も通じなかった。
そんな、少女に以前の元気な姿を取り戻させたのは怪我を治しボクシングに復
帰すると言った青年だった。
青年は自分の怪我は骨折としては軽く治りやすかった事、ボクシングを続けて
行くには支障のない事を話した。
それらの言葉に少女が安堵したところで青年は一番、伝えたかった事を切り出
した。リングに上がった少女は誰よりも美しく輝いていたと。
少女はその言葉を胸にボクシングを続けた。それは誰からの強制でもなく、少
女自身の選択だった。
自分がもっとも魅力的に見える瞬間。それを知った少女には迷いはなかった。
少女は自分にとって、強さと美しさが表裏一体だと理解しリングへと上り続け
た。
その度により強くより美しく輝く少女に世間が注目している。その陰には常に
青年の姿があり続けた。
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