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不知火舞の異常な愛情

人を寄せ付けない厳しい山中に時の流れから取り残された村があった。しかし、そ
の村は時代の流れに関係なく諜報戦の最前線を闘う者を養成し続けている。
そんな村の道場で一組の男女が組み手を行っていた。
女は不知火舞。不知火流忍術頭領の孫娘であり、若いながらその技を極めていた。
だが、その素行に少々問題があった。
この日は一応、暗色系の目立たない色ではあるが忍び装束とは名ばかりの露出度の
高い着衣で組み手に望んでいる。その首には漫画で見る忍者のような紅い布が巻か
れていた。
対する男はアンディ・ボガード。金髪碧眼の欧米人でありながらその体格は日本人
と変わりない。アンディはそのハンデを補う為、日本で武術修行をする内にこの里
へと辿り着いた者だった。

アンディは鋭い掌底と蹴りを繰り出す。しかし、舞はその攻撃を優美でありながら
無駄のない動作で次々と捌いていた。その姿は彼女の名通りの見事な舞踊だった。
そんな舞に対しアンディは隙の少ない技を次々と繰り出す。アンディは何度もこの
舞踊に煮え湯を飲まされてきた。
アンディが隙を見せればその舞踊は攻撃に転じる。それを体感してきたアンディは
大技に頼らず振りの小さい技で勝負をつけるつもりだった。
そんなアンディの思惑を余所に舞の円を描く動きが一転、その掌底がアンディの腹
部へ直線を描き出す。アンディはその一撃に反応しきれなかった。
舞の掌底は急所を捉える事は出来なかった。しかし、アンディの身体に舞の掌打を
中心とした波紋が広がる。それはアンディの内臓にことごとくダメージを与え、全
身がバラバラになるのではないかという錯覚を憶えさせた。

舞ほどの体重の者が放った並の打撃はアンディの腹筋に阻まれていただろう。しか
し、その掌打は徹しと呼ばれる骨法の技だった。
両の足を踏みしめ足首、膝、腰、肩、腕、全身を回転させその威力を増大させる。
それに加え掌底はピンポイントで相手を破壊する拳と違い衝撃をその内部へと浸透
させるという特性を持っていた。そして、それこそがアンディが求めている体格と
言うハンデを補う技だった。
アンディはその一撃に精神的にも肉体的にも屈しようとしていた。短い間ではあっ
たが共に不知火の里で修行を積んだ二人。だが、一度たりとも同じ技を修練する事
はなかった。それなのに舞がなぜこの技を使えるのか。
鍛えられているとは言えアンディに比べれば非力な舞は常に手数でアンディを抑え
てきた。そんな舞が繰り出してきた、自分が粉々にされるのではないかという一撃。
自分はこの技を本当に習得する事が出来るのか。

そんな疑問と不安と共にアンディの膝が折れようとする。だが、舞は容赦がなかっ
た。ボクシングのフックのような軌道を描き、舞の左右の掌打がアンディの顎を横
から捉え、更に下から突き上げ脳を揺さぶる。
最初の掌打で身体の筋肉が弛緩したアンディはその衝撃に耐えられず派手に吹き飛
び、背中から板張りの床へと激しく叩付けられた。
「まだまだ、貴男も未熟ね。アンディ」
舞は倒れたアンディを見下ろしながらそう言う。そんな舞の言葉にアンディは必死
に起き上がろうとした。その顔には苦痛の表情と共に疑問が浮かんでいる。
「何を不思議そうな顔をしているのかしら?」
やっとの思いで上半身を起こしたアンディを見下ろしながら舞は、アンディが何故
そのような顔をするのか、判らないと言った風に言う。
「貴男の師匠も私の師匠も私のお爺ちゃん…そして、貴男がやっている骨法は不知
火流忍術の体術では基本中の基本。私が使えないわけ無いじゃない」
アンディは舞のその言葉にそんな事にも気付かなかった自分の迂闊さ、そして強さ
を追い求めるあまりに視野が狭くなっていた事を呪った。

「これ以上、続けても無駄よ。アンディ」
哀れみを含んだ舞のその言葉を無視して、アンディは悲鳴を上げる全身の筋肉を叱
咤し必死に立ち上がり、構えを取った。
「俺はまだ立って闘える…」
そんなアンディに対し舞も骨法の構えを取る。
「もう精神力ではどうにもならないのよ、アンディ」
アンディは舞のその言葉に弾かれ斬影拳を放った。それは今にも倒れそうな人間が
放つものとはかけ離れた鋭く力強い一撃だった。
しかし、舞はそれを僅かに立ち位置を変えただけでかわしアンディの懐に入ると低
い姿勢から肘打ちで鳩尾を打ち上げた。その一撃は突進力を加えた斬影拳を遥かに
超える破壊力で再びアンディの身体を衝撃の波を広げた。
「貴男が踏み込む力を加えてやってる事よりも、遥かに高度な技がこの体術で可能
だという事を理解しなさい。そして、この技はただ相手を打ち倒す為にある。そこ
には精神論があってならないのよ」
舞はアンディの鳩尾を肘で抉ったまま告げた。その言葉と態度には常日頃の素行か
ら想像も出来ない重みがあった。もし、この里の者が今の舞を見たとしたなら次期
頭領は彼女以外にいないと口を揃えて言っただろう。
「これはその授業料よ」
舞はそう言うと自分に寄りかかっていたアンディを突き飛ばし浴びせ蹴りを放った。
舞の全体重を一転に集めたその踵はアンディの頭頂部を的確に捉える。頭頂部に激
しい衝撃を受けたアンディは鼻血を流しながら崩れ落ちた。
「怪我人よ!誰かいない?」
舞はそんなアンディを尻目に治療役を呼ぶ為に声を上げた。

数時間後、アンディは自分があてがわれた小屋で目を覚ました。そしてその枕元に
は清楚な和服姿の舞が座っている。
「舞…君はずっと…すまない…」
その言葉に舞は優しく微笑んだ。
「私こそゴメンね…やり過ぎちゃったみたいだし」
普段は快活な舞が表情を翳らせる。それに対してアンディはなんと声をかけるべき
か考えていた。
「貴男の実力を考えたら、もう少し手加減しても良かったわね」
突然の舞の言葉にアンディは思考を中断させられた。
「お爺ちゃんからの言いつけでね…貴男は最近伸び悩んでるみたいだから、私につ
いてくれって言ったのよ」
舞のその言葉にアンディの背筋に冷たいものが走る。
「動けるようになったら、早速始めるわよ、アンディ」
今日の闘いで自分と舞の間には埋めがたい実力差がある事を悟ったアンディは舞の
その言葉に絶望した。
その後、舞の言葉通りに二人は身体が動く限り組み手を行い続けた。その中でアン
ディはあまりにも隔絶した実力差に何を学べばいいのかも判らず殴られ、蹴られ、
投げ飛ばされ、関節を決められ、打ちのめされ続けた。アンディはこの里からの脱
走も試みようとしたが四六時中、舞の監視下に置かれそれも適わず、次第に虚ろに
なっていった。
やがて組み手は事実上、舞の技を人体実験する場となっていた。しかし、舞はアン
ディが絶望的な状況から闘い、生き残る術を学び取る事を信じて組み手を続ける。
それは舞のアンディに対する愛情だった。しかし、その愛も次第に歪み始めた。
舞はアンディが見せる苦悶や絶望の表情が愛おしく感じ始めた。そして、舞はアン
ディに徹しを当てる度にある思いに駆られるようになった。
この一撃を全力で放った時、相手を死に至らしめることが出来る。その時、アンディ
はどのような表情を浮かべるのだろう。死の間際に見せるアンディの表情はどれだ
け愛おしいのだろうかと。
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