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白い疾風

人気のない石畳の街道を一人の旅人がゆっくりと歩みを進めている。マントを
羽織りフードを目深に被ったその姿からは身分をうかがい知ることは出来ない。
そして、街道の脇に広がる茂みにはそんな旅人の姿を追う二人の男の目があっ
た。
その男達は音もなく茂みの中を素早く移動する。何れの男もその手に武器を持
ち、革鎧に身を包んでいた。
その男達はこの街道を行き来する者達を狙う追剥ぎだった。彼らは今、街道を
行く旅人を襲う機会を計っている。
そんな男達に彼らと同じ恰好をした一人の男が現れ合図を送る。それはこの先
に待ちかまえている仲間達からの知らせだった。
今、この街道を行く者はマントを羽織ったこの旅人のみ。男達はこの先で待つ
仲間と合流し次第、計画を実行する事にした。
だが、その旅人は男達の存在に気付いていた。そして、後を付けてくるその人
数までも把握していた。

旅人の前に武装した三人の男が現れる。その様子に旅人はフードの奥で笑みを
浮かべた。そんな旅人に男達は武器をちらつかせながら威嚇する。
その内の一人が旅人へと歩み寄った。それを合図に旅人を背後から追っていた
三人の男も退路を断つように街道へと現れた。
「金目の物を置いていけ。そうすれば命までは取らない」
旅人へ歩み寄った男がお決まりの口上を並べる。しかし、旅人はその言葉に反
応を示さなかった。
「聞こえないのか?金目の物を置いていけと言っているんだ!」
男は語気を荒らげながら旅人のフードをおろす。そこには太めの気丈そうな眉
と少々つり上がった目が印象的な女の顔が在った。
「ほう…中々の上玉じゃないか…なんだったら、身体で払って貰っても良いん
だぜ」
男は下卑た笑みを浮かべると女の顎をなでながらそう言う。そんな男に対し女
は頭突きを見舞った。鼻梁を潰され鼻血を吹き出しながら男はよろめく。女は
その頭を掴むと力任せに石畳へと叩付けた。

後頭部を叩付けられ男は昏倒した。その様子に他の男達も動き出す。女は羽織っ
ていたマントを脱ぐと走り出し最初に突撃してきた男に対して放り投げた。
その男は長剣を振るいマントを叩き落とす。その間に女は跳躍し男へ目掛け後
ろ回し蹴りを放った。
金属によって爪先と踵が強化されたブーツの踵が男の頬を捉える。男は折れた
歯と血反吐を撒散らしながら独楽のように回転し吹き飛ばされた。
男が街道に叩付けられると同時に女は着地し立ち上がる。衣服とは言い難い水
着のような白い布を身に纏った、その身体の線は女性として美しい物だった。
大きめの双房と細くくびれた腰、そして良く引き締まった尻。しかし、その二
の腕や太腿、腹部には筋肉が浮き出ていた。更に肘と膝は金属製の肘当てと膝
当てで覆われている。
「その技は…白い疾風!?お前がアンバーか?!」
男の一人が驚きの声を上げる。その言葉に女は不敵な笑みを浮かべた。

アンバー・ガルシア。女の身でありながら格闘技を修め、各地の闘技場を荒ら
し続ける彼女の名は無頼の徒の名を知られていた。
「奴を倒せ!名を上げるぞ!そうすりゃこんな稼業ともおさらばだ!」
先程、驚きの声を上げた男がそう叫ぶと別の二人の男がアンバーを前後から挟
み込み、長剣を横になぎ払う。それは首と胴を狙った者だった。アンバーはその
攻撃を這う様に身を低くして避けるとたわめた筋肉を一気に解放した。
先ずは、目の前の男の胸へ拳を突き上げるアンバー。その拳を男の身に付けた
革鎧では衝撃を吸収することが出来なかった。男の胸にアンバーの拳がめり込
み鈍い音を発生させる。胸骨を粉砕され拳の跡を文字通り刻み込まれた男は崩
れ落ちた。
アンバーの背後から残された男が長剣をその頭に目掛け振り下ろす。しかし、
アンバーは軸足をずらしながら回転するとその一撃をかわした。更に回転の勢
いを利用し男の脇腹へ回し蹴りを放つ。その回し蹴りは男の肋骨を叩き折り、
折れた肋骨は男の肺を突き破り、肺を圧迫する。
男は大量の血と息を吐きながら吹き飛んだ。

回し蹴りを喰らった男が宙を舞っている内にアンバーは残る男達へ目掛け走り
出した。その進路に一人の男が立ちはだかる。
「振っても奴には追いつかない!」
男の一人がそう叫ぶとアンバーに立ちはだかった男が長剣を突き出す。しかし、
アンバーはその長剣の側面を叩いて軌道をそらすと言う離れ業をやってのける
と男の顎を蹴り上げた。
金属に覆われた踵は男の顎を打ち砕く。男の口から赤黒い血と紅い蛞蝓の様な
肉塊が飛び出す。アンバーは男が倒れると振り上げた足をゆっくりと石畳へ降
ろした。
「ただの破落戸じゃないな、お前ら…噂の傭兵崩れか?」
残る一人の男にアンバーは問いかける。男はその問いに答えることはせず、長
剣を投げ捨てると短剣を引き抜き構えた。

アンバーの言う通り男達は元々、傭兵だった。それも少人数で敵陣に斬込み、
混乱させると言う危険な任務を好み得意とする者達ばかり。
そんな男達は乱戦の中では長剣による攻撃では隙が生まれ身を危険にさらすと
の理由で、そして仲間だと見分けがつく様に短剣を使った独自の戦い方を編み
出していた。更に連携だけではなく一人でも戦える様、その腕を磨いている。
無論、長剣の扱いも長けてはいた。
もし、男達が狙ったのが腕の立つ武芸者や冒険者でもその命は危うかっただろ
う。しかし、世界を流浪し格闘技の腕を磨き、各地で最強の名を欲しいままに
してきたアンバーの前には雑兵同然であった。だが、男は諦めてはいない。

短剣ならば動きも速くアンバーを捉えられる。男は自分にそう言い聞かせると
じりじりと間合いを詰める。対するアンバーは片手を腰に当て構えを取る様子
もない。
男は遂に短剣の間合いに入った。だが、動かない。否、動けないでいた。手に
馴染んだ得物なら勝てると勢い込んだものの実際に、その間合いに入ってみる
と男はアンバーの重圧に飲み込まれてしまった。
もはや逃げる事もかなわない。男は腹を括ると短剣を突き出そうとした。その
瞬間、アンバーは男の目の前に立っていた。
思い切り石畳を蹴り、身体を回転させアンバーは男の鳩尾を拳で突き上げた。
その拳は男の足を石畳から引きはがし、更に男の身体を折り曲げる。男はその
恰好のまま宙を舞い血の混じった胃液を吐き出した。瞬く間に六人の男を倒し
たアンバー。その姿は二つ名に恥じないものだった。
「命は取っておいてやる。次はもっとマシになってくるんだな」
そこかしこでうめき声を上げる男達にアンバーはそう言う。その表情には余裕
の笑みが浮かんでいた。
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