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お年玉

 俺はオクタゴンの中で対戦相手を待っていた。相手は女子総合格闘家、いわ
ゆるエキシビジョンマッチと言うやつだ。
 やがて花道をミニ和服に身を包んだ女が歩いてくる。その顔は紛れもなく対
戦相手の女。元空手王者、元プロレスラーの肩書きを持つ女。
 本来、真剣勝負向きの性格なのか総合格闘技に転向してからは負け知らずを
誇っているそうだが、流石に階級が上のしかも男の俺を相手にしようとは無謀
過ぎる。俺はそれを思い知らせるために試合を受けた。
 ついに女がオクタゴンへの入り込んできた。だが、様子がおかしい。女はガ
ウン代わりと俺が思っていたミニ和服を着たままシャドウを始めた。
 ふざけてるにも程がある…俺はそう思いマウスピースを食い千切れるのでは
ないかと思うほどに歯をかみしめ、グローブの保護されていない手のひらに指
が食い込みそうなほど拳を握り締め、睨みつける。
「松の内だし、折角だから華やかに行かせてもらうわ」
 俺の視線に気づいたのか女はシャドウをやめると歩み寄って来た。
 それから暫く睨み合いの後、試合開始のブザーが鳴り響いた。俺は身構える
と一旦、間合いを取る。対する女は間合いを測る俺に常に正対する様に身構え
続ける。
 ジリジリと間合いを詰める俺。ダッシュ力には自信がある。一気に飛び込み
一撃で決められる距離に近づいた瞬間、俺は動いた。
 だが、女の前蹴りがしかも足裏ではなく爪先で蹴るそれが鳩尾をえぐる。肺
へと深く吸い込んでいた息が一気に放出され、俺の前進が止められた。更に、
女の左ミドルキックが連続で俺の脇腹を捉える。
 その蹴りは速く文字通り俺に息をつく間も与えない。流石にキャッチするの
は無理だと思い知らされ、タイミングを見計らい後退を試みた。女のミドルが
虚しく空を切り、勢い余って背中を向け始める。
 俺はそのまま背後を取ろうと、再び間合いを詰めた。だが、俺の右頬へ女の
右バックハンドブローが叩きつけられた。狙ったわけではない咄嗟の一撃。
 その機転はだとは思ったが俺の前進を止めるには至らない。多少、勢いは鈍っ
たものの俺はそのまま前に出ながら拳が振りぬかれガラ空きになった女の右へ
左の拳を振りかざした。
 しかし、俺の視界が急激に左へと振られ振りかざした拳は女を捉える前に停
止した。女は自身の回転の勢いを利用して俺の顎へと左フックを放ってきたの
だった。
 手痛いカウンターを貰い俺はぐらつく。そこへ女は更に拳を繰り出しコンビ
ネーションを叩きこんできた。右から左、或いはその逆と思えば正面から、下
から顔と言わず身体と言わず迫り来る女の拳。それらは的確に俺の急所を貫き
一気にスタミナを奪い、意識を刈り取ろうとする。
 俺は苦し紛れに更に拳を振るったが女はそれをするりと潜り抜けると俺の背
後へと回った。俺の脇から女の腕が差され、腰に女の手が回る。そして、女は
意外な膂力で俺を持ち上げるとそのまま回転しながら俺をオクタゴンの床面へ
と叩きつけた。
 俺は女の裏投げに十分な受け身も取れずに、身じろぎも出来ずにいた。その
間に女はあっさりとマウントポジションを取る。裏投げならばサイドポジショ
ンからの展開になるはず。その事実に俺は想像以上にダメージを貰っている事
に焦りを感じた。
 一気に抜けだしてしまおうと相手に膝を押しエビを切り抜けようと試みたが
ガードの疎かな俺の顔面へ女のパウンドが降り注ぐ。
「焦りすぎよ。その分、しっかりとお年玉をあげられるけどね。遠慮無く貰っ
てよ」
 女は軽口を叩きながら更に左右の拳を次々と俺の顔面へと振り下ろした。そ
こで試合終了のブザーが鳴り響く。これ以上、続けては危険と判断されたから
だ。
 意識を手放す前にブザーに救われた俺は突然、身体が震え始めた。俺の理性
は女の強さを認めようとは未だしていない。だが、本能はどうあっても抗えな
い実力差を感じ取っていたのだろう。
 女は立ち上がり片手を軽く突き上げ勝利アピールをしながらオクタゴンを去っ
ていく。俺はその後ろ姿が遥か遠い先にある錯覚を覚えていた。

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