2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

覚醒(前編)

「なんだって?シスター!」
キャンディ・ケインは受話器に向かって声を荒らげた。電話の向こうからは慌てる
キャンディとは対照的に落ち着いた老婆の声が流れてくる。電話の相手はキャンデ
ィが育った孤児院の主であり、数少ない理解者であった。
今、キャンディの育った孤児院は金銭トラブルに見舞われていた。キャンディはそ
の事を知るとランブル・ローズのリングに立った。優勝賞金を手に入れかつて自分
を育てくれたシスターの役に立ちたい。その思いは見事に優勝を掴み、キャンディ
は賞金を全て孤児院の為に投げ出した。

しかし、シスターからの電話は残念ながら優勝賞金は借金の元金にしかならないと
告げてきた。キャンディはその話を聞くと目まぐるしく思考を巡らし一つの結論を
導き出しす。
「OK、シスター。安心して。残りのお金も用意してあげるから」
世間では不良で通っているキャンディだが孤児院のシスター達、とりわけ、この老
婆と話す時は心優しい少女の顔を見せる。そんな、キャンディに対し老婆は悪い事
も危ない事もしないようにと諭して電話を切った。
「ごめん、シスターその約束は守れないよ」
キャンディは受話器を置くとそう呟いた。キャンディが借金の利子を稼ぎ出す為に
選んだ方法。それは非合法の賭試合に出場することだった。
スピーカーから勝者の名前が告げられると観客達は自分の賭の勝ち負けを問わず歓
声を漏らした。会場の中央には八角形の檻――オクタゴン――が存在しており、そ
こにはレフェリーに腕を掲げられた少女と顔を腫らし倒れ込んでいる男が居た。
その少女は紅く染めた髪をツインテールに纏め、南京錠をアクセントにあしらった
黒革のチョーカー、「Killer Barbies」と言うバンドのロゴがプリ
ントされたヘソ出しシャツ、黒とチェックの生地をプリーツとして交互に組み合わ
せたミニ、黒とピンクのボーダーラインのオーバーニーソックス、ソールの厚いブ
ーツ、鋲が打ち込まれた腕や脚には革ベルトが数本巻きつけたパンク・ファッショ
ンに身を包んでいた。
それはリングコスチューム姿のキャンディだった。しかし、その拳には何時もの皮
グローブではなくオープンフィンガーのグローブに覆われている。
キャンディはこの闘技場に現れると観客の大半の予想を裏切り次々と対戦相手を沈
めていった。

身長170センチ強、体重50キロ半ばのキャンディが屈強な男達を倒す様はキャ
ンディの容姿、そしてランブル・ローズでの闘いからは誰も想像し得ない程、激し
かった。
急所へ打撃を躊躇いもなく打込み相手が崩れ落ちたところへ馬乗りになり戦意を失
うまで殴り続ける。それは、かつてキャンディが喧嘩で身につけた闘い方だった。
そして、これこそがキャンディの本来のファイトスタイルだった。
しかし、キャンディはそれを封印していた。その激しさ故、何時か歯止めが聞かな
くなる事を恐れて。だが、キャンディは敢えてその封印を解いた。ここでは僅かな
躊躇いが命取りになる。
そして今、キャンディは一戦ごとに自分の心に潜む悪魔が解き放たれていくのを感
じていた。キャンディはこの魔物が解き放たれる前に全てを終わらせるつもりだっ
た。

再びスピーカーから流れたリング・アナウンサーの声が会場を震わせる。それはこ
の闘技場で最強とされる男の登場を告げたからだ。
オクタゴンへと向かう花道に古代ギリシャ兵の腰鎧の様なデザインのパンツにオー
プンフィンガーのグローブといった出立の男が入場してくる。年の頃は20代半ば
で誰もがその顔に見覚えがあった。男の身長170センチ強、体重70キロ半ばと
格闘家としては小柄だが、柔軟性と強靱さを兼ね備えた理想的とも言える筋肉に全
身が覆われている。男はある総合格闘技団体のミドル級世界チャンピオンに君臨し
ていた。しかし、男はルールに縛られた試合に飢えを感じ、栄誉ある地位を捨てる
とこの闘技場へと身を投じた。
命を削るような闘いの末、男はこの場でも最強の座を得た。そして、男は再び飢え
を感じ始めていた。

男はオクタゴンのゲートを潜るとその中央へと向かった。そして、キャンディの前
に立ちふさがる。それはキャンディを自分が入ってきたゲートから出て行く事を拒
否しているかの様に見えた。
オクタゴンの中央で二人が対峙するとレフェリーがその二人に対しルールの説明を
行ないはじめた。それはどちらかが動かなくなるまで闘い続けると言う非常に単純
で過酷なものだった。今までの闘いは相手が戦意を失った時点でも決着が付いた。
だが、今度の闘いはそれを認めていない。それは、最悪の結果を招く可能性が格段
に高まったという宣告でもあった。しかし、拳よりも危険な物を突き付けられた事
のあるキャンディはその事実に動じなかった。
レフェリーがキャンディに対し、ファイトマネーは無効になるがこの闘いを降りる
事が出来ると告げた。無論、キャンディはこの闘いを降りるつもりはなかった。更
にレフェリーは男にも同じ問いを行ない、男も同じ様にこの闘いを降りる事を拒否
する。
遂にレフェリーが試合開始を告げた。
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ