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確執(前編)

とある名門ジムの練習場。その日、その場は緊迫した空気が漂っていた。原因は一
組の男女で、二人はこのジムの看板ボクサーとも言うべき存在である。また、共に
フェザー級の世界ベルトを有していた。そして、二人は互いに相手の存在を疎まし
く思っている。二人がその栄冠を手にする迄の道程は対照的なものだった。
男は十八歳でデビューすると勝ち負けを繰り返し地道な努力の末、二十五歳で世界
チャンピオンへと登り詰めた。その後、二年間で五回の防衛戦は全て勝ち続けてい
る。
一方、少女は十七歳でデビューし、二年という短期間で無敗のまま、チャンピオン
の座を射止めていた。その後、9ヶ月で既に三回の防衛戦を重ねており、デビュー
以来の全戦KO記録も更新中である。男子に比べ選手層が薄い女子ボクシングでは
これだけの躍進は珍しい。試合が流れる事も珍しくないにも関わらず好カードに恵
まれたと言う側面もあるがそれ以上に、確実に勝利を手中にする少女の実力と不断
の努力がその偉業を支えていた。

当初の二人の関係は今の様に険悪ではなかった。むしろ、良好だったと言っても良
い。少女は男の闘いの軌跡に対して敬意を払い、男は少女の才能と努力を買ってい
た。二人の関係に亀裂が入ったのは少女が世界タイトルに手が届くと言う頃からだ
った。
少女の華々しい戦績を褒め称えるコメントが飛交い始めると男は少女に対して、初
心を忘れるな、努力を怠るな等とお決りの文句を並べ始めた。それに対し少女は判
りきった事ではあるもの、の素直に頷いていた。
だが、何事にも限度がある。少女は男が余りにも同じ言葉を繰り返すので閉口し始
めていた。対する男は少女の微妙な態度の変化を感じ取り、偏執的とも言える態度
で少女への注意を繰り返す。そして、遂に少女は爆発した。男の言葉は十分に理解
している。その事をリングで証明してみせると。
二人の険悪な関係に憂いていたジムの会長は膿を吐き出す丁度良い機会だと判断し、
スパーリングではなく非公式の試合としてこの闘いを行なう事にした。それは半端
な結果では二人の溝は更に深まると考えての決断だった。
そして、二人は今、リングで上で対峙している。男の顔付きは精悍で短く刈り込ま
れたレンジャーカットが歴戦の勇士の風格を漂わせていた。身長は180センチ程
度で身体はその体重故に細身に見えるが、無駄なく鍛えられた肉体はボクサーとし
ては理想的とも言えた。
対する少女は中性的な顔立ちでショートボブと言う髪型がクールな印象を与えてい
る。身長170センチ程度、体格は体重から言えば適正体重を超えているはずだが
女性としては理想的とも言えるプロポーションを保っていた。それと同時に少女も
ボクサーとしてはほぼ理想的とも言えるだけの筋肉を持ち合わせている。
女性として美しいボディラインと女子アスリートとしては恵まれた長身、そして鍛
え上げられた肉体。そのアンバランスさ、ミスマッチさが少女の美しさを際だたせ、
見る者に美術的価値を持つ刀剣の様な印象を与えている。

二人がグローブを合わせる事無くファイティングポーズをとるとレフェリーを務め
る会長が試合開始を告げた。互いに間合いを計りリングで円を描く少女と男。先に
仕掛けたのは男だった。ジャブで間合いをとり、たまにストレートを交えながらコ
ンビネーションへ持ち込もうとする男。そして、その拳を紙一重で躱し或いは防御
しながら時折、牽制のジャブを放つ少女。
少女は男の拳が生み出す風圧を感じる度にその衝撃波で肌が焼けるような錯覚を憶
えた。更にガードする度に腕が痺れる。このパンチを食らえば自分は立っていられ
ない。そんな、恐怖を押さえつけ、少女は冷静に男の動きに対応する。
一方、男は少女のディフェンステクニックに苛立ちを憶え始めていた。しかし、男
もその苛立ちを抑えこみ少女の隙を窺う。そして、互いに主導権を譲らぬまま第一
ラウンドは終了した。

戦局は今のところ互角と言える。積極的と言えば聞こえは良いが実のところ、無駄
なパンチを打っていた男。それに対し類い希なディフェンステクニックで男の攻撃
を凌いだ少女。だが、その防御は何時、崩れるとも知れない。何より少女は男を倒
す為には牽制程度のパンチを繰り出している訳にはいかない。男は少女に攻勢へと
出させる為に、無駄に見えるパンチを繰り出し少女を揺さぶっており、少女もそれ
を理解していた。
インターバルが終了し、第二ラウンドの開始が告げられ二人はリングの中央へと向
かっていた。再び、男が攻め少女が防御と牽制を繰り返すという展開が繰り広げら
れる。
遂に、男は真っ向勝負ではこの少女を倒せないと悟るとフェイントを交えつつ更に
攻撃を続けた。対する少女は男の攻撃を何とか凌ぎながら反撃の糸口を求める。そ
して、遂に少女のディフェンスに綻びが生じた。
男はその隙を逃さず鋭い左フックを放った。少女は必死に身を反らし男の拳から逃
れようとする。そして、男のフックが少女の顎を掠めた。それは直撃ではないもの
の少女の動きを僅かではあるが止めるには十分だった。
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