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確執(中編)

少女は男のパンチに怯まず、しっかりと男の動きを見据えていた。少女の耳から全
ての音が失われ、視界がモノクロになる。それと同時に男の右ストレートが自分の
顔へ目掛け真っ直ぐに突き出されるのがやけにゆっくりとしたものに見えた。
ふと少女の脳裏に人間は自分の危機が迫ると不要とされる感覚を遮断し、必要な感
覚を研ぎ澄ますと言う話が浮かび上がってくる。そんな記憶と共に少女は男のパン
チをダッキングで躱しつつ、一気に懐へ飛び込んだ。
目の前に男の良く鍛えられた胸筋を認めるとそこで少女の視界が色を取り戻し、様
々な音が鼓膜を震わす。少女は下半身の伸び上がりと腰や膝、足首等の回転を加え
右のボディアッパーを突き上げた。その一撃は男の強靱は腹筋を避け正確に男の鳩
尾へと吸い込まれ、男の呼吸を乱し動きを鈍らせる。少女はそのまま手を休めず、
鋭い左のショートボディフックを肝臓へと打ち込んだ。

その攻撃は致命傷ではないものの、男を怯ませるには十分だった。類い希なるディ
フェンステクニック。直撃ではないものの男のパンチを貰いながら冷静に相手を見
据える精神力。急所を的確に捉えるパンチテクニックと冷静さ。男は少女の実力の
一端を認めざるを得なかった。だが、自分はまだ倒されたわけではない。
男は少女の更なる追撃を避け試合を仕切り直すために後退した。少女の攻撃に対し
湧き上がりつつある脅威を必死に押さえ込みながら。
対する少女は後退する男に対しワンツー・ストレートを放った。少女のジャブが男
の顔を捉える。男は次の攻撃に対し更に後退した。もし、ここでガードすれば少女
は確実にその穴を突いてくる。男の長年の経験はそう告げていた。
更に後退する男の顔に対し少女のストレートが浅くヒットする。だが、男はそれさ
えも無視して更に退避行動を取り続け、少女の制空権から脱した。
そして、男が逃げ切ったところで第二ラウンドの終了を告げられた。
男がコーナーに戻ると自分がとるべき戦術を変更した。それは、リーチの長さを生
かし距離をとり、足を使って相手を懐に入らせる無い事。そう何度も男が頭の中で
繰り返すと第三ラウンドの開始がされた。
男は何とか距離を取ろうと足を使って動き回る。少女は相手の隙を窺う事を止め、
懐に飛び込む決意を固めた。少女のフットワークは男のそれを凌駕する。男は焦り、
少女を牽制するためにジャブを放つ。しかし、少女の右ストレートは男のジャブが
自分に到達する前に男の胸部を捉えた。それは運動エネルギーを損わず、しかも足
首、腰、肩の回転を加え拳を錐の様に男の心臓を突き刺す。その一撃は最も力の乗っ
た瞬間にインパクトし、男の身体機能を麻痺させた。

少女は更に男を追い立てた。左ジャブを起点とするワンツー・ストレートから左フ
ックで男の脳を揺さぶり更に右、左とボディアッパーを繰り出す。それらは、防具
としての機能を停止している男の腹筋を抉ると胃と肝臓を揺さぶり、男の身体を前
のめりにさせた。少女はその顎へ左右のアッパーを打ち上げる。
男は少女のラッシュで意識が飛び、身体を傾げた。しかし男は何とか踏み止まった。
それは闘争本能と長年の闘いで身体に染みついたボクサーの性が為せる技だ。
そして、その二つは少女に対する反撃を開始した。男は渾身の力を込め、ストレー
トを打ち出す。しかし、その一撃は理性で制御された洗練された一撃ではなかった。
少女は何の苦もなく躱すと男のこめかみに渾身の右フックを放つ。男はとうとう、
衝撃に耐えられず尻餅をつく様にダウンした。

男は失われていた様々な感覚を取り戻すと自分が見下ろしていたはずの対戦相手を
見上げている事に気付いた。勿論、それが意味するところも。だが、男にはその光
景は対戦相手が少女である事以外は見慣れたものだった。そして、久しぶりの光景
でもあった。
男はチャンピオンになるまでの苦しい過程を思い起こしながら、ゆっくりと立上が
りファイティングポーズを取る。
レフェリーが試合再開の合図をすると二人は間合いを詰めた。そして、激しい攻防
を開始する。互いにあらゆる角度からパンチを放ちそれを避け、或いは弾き反撃の
手を繰り出す。
少女の長所はスピードとテクニック、短所は女性であるが故のパワー不足と脆弱さ。
男の長所はパワーとタフネス、短所は少女に及ばないテクニックとスピード。

技と力がぶつかり合い均衡を保つ。しかし、その均衡は僅かではあるが崩れ始めて
きた。少女のパンチは浅い当たりながらも男の体力を着実に奪う。そして、男の一
発逆転をかけ放たれるパンチはことごとく躱されていた。少女からのダメージに加
えパンチの空振りが男のスタミナを更に削いでいく。次第に防御しがちになってい
く男と、その防御の綻びを的確につく少女。だが、男は諦めていなかった。
第三ラウンドの終了間際、男は少女のストレートに合わせカウンターの一撃を放っ
た。二人の拳が交錯する。少女の拳は男の顎脇を完璧に捉え、男の拳は少女の頬へ
浅くヒットした。男は少女のストレートをまともに貰い足をもつれさせながら後ろ
へよろめくと仰向けにダウンした。対する少女は男の打撃に耐え抜き、その場でファ
イティングポーズを取り続ける。
そこへ第三ラウンド終了を告げられた。男はカウントから免れる。

インターバル中、男は必死に動揺を収めようとしていた。保たれていた均衡が突然、
崩れ去り一ラウンドに二度もダウンを奪われれば当然の事である。
一方、少女は先のラウンドでの優勢を過信することなく気を引き締めた。男のパン
チは未だに警戒に値すると少女は信じている。
それぞれが為すべき事を成した時、第四ラウンドが開始された。男は第二ラウンド
終盤のボディから第三ラウンドの少女のラッシュ、そして激しい攻防、二回のダウ
ンで思わぬダメージを受けていた。男は防御からのカウンターを狙う事にした。
対する少女は男の意図に気付き防御の甘いところから二、三発のコンビネーションを
放ち深追いしすぎない様にヒット・アンド・アウェイを繰り返した。
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