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春麗VS

青いチャイナドレスの女と道着姿の男が激しい攻防を広げていた。互いの拳を蹴りを
捌き、受け止め、かわす。
女格闘家の名は春麗。中国拳法の使い手である彼女は女性には長身で見事なプロポー
ションの持ち主だった。そして、特に目につくのは良く鍛えられた下半身。その姿か
ら誰もが想像する通り、蹴技を得意としていた。
そして、道着姿の男の名は。空手や柔道等を習得し更には波動拳なる氣を操る術を
身につけていると噂される格闘家だ。戦いで乱れた道着の合わせ目から良く鍛えられ
た胸筋と腹筋が存在し、敗れた袖から覗く腕も逞しい。
単純な力比べならばに軍配が上がるであろう。しかし、格闘技の世界は力だけでは
どうにもならない。様々な手を尽くし相手の隙を捉える技や駆け引きも重要である。
今のところ二人の闘いは互角と言えた。互いに相手の隙を突き闘いの流れを自分に引
き寄せようとしている。

打合いの最中で春麗は一つの事に気付いた。それはの呼吸が妙に規則的な事である。
それは氣を練ると言う行為だと確信した春麗はそれを逆手に取ることにした。。
春麗はこのまま、打合いを続けていたも埒があかない。そんな表情を浮かべると後退
した。そして、はそれにのせられた。
「波動拳!」
両手を突き出し練り上げた氣を一気に放出する。しかし、その先には既に春麗は存
在しなかった。の視界を一瞬、陰が過ぎる。その直後、春麗はの目の前に姿を現
した。
春麗はわざと後退しに波動拳をを打たせて隙を作らせた。そして、春麗は次の手を
打つ。春麗の膝蹴りがの鳩尾を捉えた。その一撃はの肺を圧迫し呼吸困難へと陥
らせ、よろめかせる。そこへ更に春麗の蹴りが襲いかかる。先ずは念入れと言わんば
かりに横蹴りがの鳩尾へ打ち込まれ、更にその脚はの顔へと向けられた。硬いブ
ーツの底がの鼻梁を潰す。そして、夥しい量の血が噴き出しの鼻から下を赤く染
め上げた。
「もう波動拳は使えないわよ」
はその言葉に内心、動揺した。自分の呼吸法を見破った対戦相手は春麗が初めてで
あると同時にそれを完全に封じられたのだ。乱れた呼吸は時と共に戻していけば良い。
だが、鼻腔内の出血は呼吸の妨げとなり氣を練る事を不可能とする。しかも、被害は
それだけでは無い。呼吸が乱れれば体力の消耗も激しくなる。は目の前の女拳士の
勝負観に戦慄を覚えた。

長期戦は不利になる。そう踏んだは一気に勝負をかける事にした。中段や下段への
ラッシュを仕掛ける。春麗はそれを冷静に防御し受け流した。しかし、は愚直と
も言える程その攻撃を繰り返す。対する春麗もそれを完全に捌いた。
は中段と下段の攻撃を十分、印象づけた頃に突然、宙を舞うと旋回し蹴りを放った。
それはの必殺技の一つ竜巻旋風脚だった。その一撃は並の格闘家なら十分に奇襲効
果を発揮していたであろう。だが、春麗は違った。竜巻旋風脚に対し春麗は後ろ回し
蹴りで対抗した。交錯する二人の蹴り。その勝負を制したのは春麗だった。
無様に跳ね飛ばされ地面へと叩付けられる。
「あれだけ中段と下段を見せ付けられれば何かあると思うわよ」
春麗はつまらなさそうにそう告げる。はその言葉に何も答えずぎこちなく立ち上り
構えを取る。しかし、その表情には苦痛が浮かんでいた。先程の蹴りで脚を負傷して
いる事は確かだった。だが、その目はまだ負けを認めていなかった。

再び対峙する二人。先に動いたのは春麗だった。一気に間合いを詰めると春麗は回し
蹴りを放った。その一撃はの側頭部を捉え脳を揺さぶる。しかし、春麗の攻撃はそ
れでは留まらなかった。回し蹴りの回転を殺さず、更に後ろ回し蹴りを放つ春麗。そ
の踵は寸分違わず先と同じ部位に吸い込まれていく。の身体はその一撃で傾いた。
しかし、が倒れる事は許されなかった。春麗は後ろ回し蹴りを放った脚で内回し蹴
りをの側頭部へ見舞う。無理矢理、直立させられる。そこへ更なる蹴りの連打が
を襲った。前蹴り、横蹴り、回し蹴り、様々な蹴りが様々な角度からの上半身の
へと打ち込まれる。しかも、それらの蹴りはどれも鋭く重い。それは春麗の持つ筋力
と技量を以て為せる技だった。

次第に春麗の蹴りはの頭部へと集中し始める。やがて、の顔は無惨な状態へと化
した。頬や目蓋、至る所が腫れ上がり痣と裂傷と流血に覆われた。そして、春麗の蹴
りが頬を捉えると口から血を迸らせ折れた歯を撒き散らす。更にの目は焦点が合わ
ず闘志も意識もない虚ろなものとなっていた。
「そろそろ終わりにしましょう」
春麗は片足立ちで蹴りを乱打しながら酷薄な笑みを浮かべそう告げた。そしての顎
へ目掛け突き上げる様に渾身の上段横蹴りを放った。顎が砕ける音が響き渡りは宙
を舞うと再び大地へと叩付けられた。
「噂ほどでもなかったわね…」
春麗はそう言うと失神し痙攣するを尻目に立ち去った。その顔には言葉とは裏腹に
嗜虐心を満たした笑みが浮かんでいた。
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