2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

悪戯の代償

「ちょっと、話があるんだけど」
昼休みに何をするでもなくぼうっと自分の席で過ごしていた少年の元に一人の
少女が声をかけてくる。少年はその声の方へ目を向けるとそこには柳眉を逆立
てた活発そうな少女が居た。
「あんた、いつもまゆを苛めてるんだろ?」
怒気を孕んだ声で少年に詰め寄る少女。その背後にはうつむき加減の大人しそ
うな少女が立っている。少年は二人の少女に見覚えがあった。うつむいたまま
立っている少女は同じクラスのまみ。そして、目の前で怒っている少女がまみ
の幼なじみで隣のクラスに居る美紀。しかし、少年には美紀の言う事に覚えが
なかった。
「まみから聞いてるんだよ!消しゴムのかすを丸めて投げたりシャーペンの芯
をぶつけたり、からかったり」
美紀は少年がまみに何をしていたか、つらつらと並べたてる。少年にとっては
その行為が苛めと取られていたのは心外だった。未だに小学生気分を引きずる
少年にとってはそれは単なる悪戯に過ぎなかったからだ。
「まゆがおとなしいと思って好き勝手しやがって!まゆに謝れよ!」
自分が何をしていたか自覚のない様子の少年に美紀はいっそう柳眉を立て詰め
寄る。
突然、少年は自分に怒り詰め寄る美紀に対して持ち前の悪戯心が頭をもたげて
きた。ただ、謝るのも詰まらない。少しぐらいはからかってやろう。どうせ、
相手は女子だし怒っていても大したことはない。
そんな思いから生まれた少年の言葉は次のようなものだった。
「ハイハイ、ゴメンちゃい!」

美紀はその言葉に拳を握りしめ肩を震わせる。
「ちゃんと謝れ!」
今までとは比べものにならないほど怒りに満ちた美紀の叫びにざわついていた
教室が静まりかえった。それと同時ににやけていた少年の顔を衝撃が襲う。そ
の正体は美紀が振り下ろしたパンチだった。派手な音を立て椅子ごと後ろに倒
れると少年は床に後頭部を激突させ更なる衝撃を頭部に受けた。
連続した衝撃に少年は目から火花が出るとは良く言ったものだと場違いな感想
を抱きながら起き上がり、先ずはぶつけた後頭部をさする。そして、腫れてい
ない事を確認すると今度は顔をさすった。その手にぬるりとした感触が伝わる。
自分の手を見つめる少年。それは赤い血で塗れていた。少年に怒りが込み上げ
てくる。
「何も殴る事はないじゃないか!」
そう叫ぶと少年はパンチを振り下ろしたまま怒りに震える美紀に身体ごとぶつ
かっていった。机や椅子がぶつかり合う音が響き、もつれ合いながら倒れる二
人。互いの制服を掴んだまま床を転がる美紀と少年。やがて、少年は美紀に完
全に組み敷かれる形になった。
「まみに謝れって言っているのに突っ掛かってなんてどういうつもりだよ!」
美紀のその言葉に少年は先に殴ってきたのはどっちだと思った瞬間、口元に痛
みを感じる。それは美紀のパンチによるものだった。少年の唇が切れ、口の中
に血の味が広がる。
「アンタがそのつもりなら、まみに謝るまで殴ってやる」
少年は美紀の宣言に嫌々をする子供の様に首を振る。しかし、美紀はそんな様
子を無視し再びパンチを振り下ろした。それは偶然、少年の顔が横を向いた瞬
間に頬を捉えた。少年は硬いリノリウムと美紀のパンチで頭部が挟まれた。そ
の上、口内が切れ更に血の味が広がる。更に先程は何ともなかった、後頭部が
違和感を感じる。今になって床にぶつけた後頭部が腫れてきたのだ。

美紀が三度、拳を振り上げるのを少年は見た。その瞬間、痛み、美紀の怒り、
殴られる恐怖。様々なものが入り交じり、少年の目から涙がこぼれ始める。
「ごめんなさい!ちゃんと謝ります!だからもう殴らないで!」
少年は泣きながらそう叫んだ。美紀はその言葉に振り上げた拳をゆっくりと降
ろすと両手で少年の両肩を押さえ込んだ。
「本当にまみに謝るんだな?」
美紀は鼻をぐずらせながら涙を流す少年の目を真剣に見つめると問いただした。
「はい」
少年は美紀の目に気押されると短くそう答えた。その言葉に美紀が立ち上がる。
「まみ、ちょっと」
予想外の大事になり狼狽えていたまみを美紀は呼ぶ。そんな様子を見ながら少
年はのろのろと立ち上がった。
「早く立てよ!また殴られたいの!?」
少年は美紀のその言葉に一瞬、身体を強張らせたが、もう殴られたくないと言
う恐怖感が勝り出来る限り、早く立ち上がろうとした。その時、少年は美紀の
身長が自分より高い事に気付く。早い段階の成長期では男女の力の差は女子に
軍配が上がることは少なくない。体格差が在れば尚更のことだ。少年は自分の
無謀さを呪った。

少年の目の前にまみが立ち、その脇には美紀が腕を組んで立っている。一瞬、
美紀と少年の目が合うと少年の涙の流れが強くなった。
「まみさん、すいませんでした。それから美紀さんもすいませんでした」
少年は鼻と唇の端から血を流し嗚咽を堪えながら謝罪の言葉を紡ぎ深々と頭を
下げた。
「また、まみに何かしたら痛い目に遭わせてやるから!」
まみに対する謝罪を終えた少年に美紀はそう言うと隣のクラスへと戻って行っ
た。
翌日、少年は空腹と惨めな気持ちに苛まれながら登校した。美紀に泣かされた
と言う屈辱感と口内の痛みで昨夜は食事どころではなかったからだ。少年は廊
下で女子とすれ違う度に皆が笑って行く様な気がし、更に惨めな気持ちになっ
た。
足早に自分の教室へと向かおうとする少年。その前に美紀が現れた。少年は一
番、会いたくない人物と出会い思わず顔をしかめた
「あれ?こことここに痣が出来てる…たんこぶは出来てない?」
美紀は少年の表情を無視するとわざとらしくそう言った。その言葉を無視して
少年は立去ろうとする。
「痛いでしょ?鼻の方もまだ痛い?ゴメンちゃい!」
美紀は少年の昨日の言葉を真似ると笑いながら立去った。その言葉に周りに居
た女子から笑い声が溢れる。少年はその場から逃げる様に小走りで自分の教室
へと向かった。
twitter
検索フォーム
リンク
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

最新コメント
最新トラックバック
FC2カウンター
現在の閲覧者数:
ブログパーツ