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女王と道化師 後編

激しい打撃音が響き渡り、糸が切れた操り人形の様にジョーは膝をついた。
だが、ジョーの身体は驚異的な回復力を発揮しぼやけた視界と途切れた意識を
再接続し、抜けた力を四肢へと行き渡らせ立ち上がる。
自分よりも格下と侮っていた女に膝をつくことになったジョー。その表情から
余裕は失われていたが、焦りの色は無い。しかし、怒りに満ちていた。
「Come'on baby」
立ち上がりはしたものの構えも取らずにいたジョーに対しキングは構えを解き
片手を腰に当て手招きをする。その態度にジョーの怒りが頂点に達した。
雄たけびを上げ本能だけで次々と攻撃を繰り出すジョー。その攻撃をキングは
舞うが如きの華麗さで避けていく。
しかし、ジョーは無尽蔵とも言えるスタミナを発揮し攻撃を緩めるどころか加
速させていった。キングはそんなジョーの攻撃に割り込むと顔面に肘を叩き込
んだ。

キングの肘がジョーの右の目尻を捉えた瞬間、ジョーは怒りを忘れ攻撃を止め、
間合いを取った。一方、キングは深追いせずにその場に留まる。
キングの肘を貰った右の目尻に手を当てるジョー。その手を離し覗き込むと巻
かれていた白いバンテージに赤い染みが出来ていた。相手に流血させ視界を奪
う。ムエタイでは別に珍しい事ではない。
「忘れていたんじゃないかい?こういう闘いをさ」
怒涛のラッシュをただの一撃で退けたキングはジョーに問い掛ける。そして、
ジョーはキングの指摘の通りこんな展開を忘れていた。それは圧倒的な強さで
危なげの無い試合を繰り返し、長期に渡り王座に着いていたジョーに対する代
償だった。
「あんたに思い出させてやるよ、ムエタイの本来の姿をさ」
誰もがその美貌を認める男装の麗人の目に、数々の修羅場を潜り抜けてきた古
強者だけが持つ鋭さが宿る。ジョーはその鋭さに気圧された。

ジョーに対しキングの左足が襲い掛かる。鞭のようにしなりを効かせたその蹴
りはジョーの右わき腹に食い込み肝臓を圧迫する。
いつものジョーであればその一撃を様々な手段で防御することが可能だったが
右側が死角になった上に距離感を失ったジョーには満足な対応は不可能だった。
更に2発、3発と執拗にキングはジョーの肝臓を攻め立てる。
ジョーは防御を捨て持ち前の根性を頼りにキングの蹴りに耐えながら前に出る
と強引に首相撲の体勢へ持ち込んだ。
「おいおい、首相撲まで忘れてるじゃないか」
力任せにキングを押さえ込もうとするジョーを、キングはテクニックで右へ左
へと自在にコントロールしてからジョーを転がした。
「Try again?,Boy」
あっさりと転ばされたジョーに対しキングは挑発する。その一言にジョーは怒
りもせず唇を噛んだ。右側は完全に死角になった上に満足に距離感も掴めない。
唯一の勝機と思われた首相撲もしばらく使わない内に錆び付いていた。

それでも立ち上がり逆転の望みをかけ前に出ようとがむしゃらに手足を振り回
しするジョーに対しキングは自分の打撃の制空権を保ちながら拳や蹴り、肘、
膝を打ち込んでいく。
満足な防御も出来ずキングの攻撃を受けるたびに苦悶の表情を浮かべるジョー。
その多様な表情にキングは口元に愉悦の笑みを浮かべていた。たまにはこう言
うのも悪くはないとキングはその感情に従いジョーを嬲り続けた。
その目から光を失い、立っているのが奇跡とも言えるジョーは遂にキングのジャ
ケットの襟を掴んだ。そして、それがジョーにとって最後の抵抗だった。
キングはそんなジョーの首を抱えるとその腹部に膝を叩き込んだ。しかし、キ
ングのジャケットを掴んだその手は離さずにいる。キングは何度もジョーの腹
部に膝を突き上げた。その膝はジョーの内臓を抉ったが既に痛覚が麻痺したジョ
ーは何も感じなかった。

何時までも襟を握ったまま離さないジョーに対しキングはその顔に膝を叩付け
た。その衝撃にジョーはキングの襟から手を離し口の端から折れた歯の混じっ
た血反吐を迸らせて俯せに崩れ落ちた。
ジョーの顔を中心に徐々に広がる血溜りを見詰めるキング。その顔には見る者
に畏怖の念を与えると同時に目を逸らすことの出来ない怪しく艶やかな表情を
浮かべていた。
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