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リベンジマッチ

男の鳩尾を拳が突き上げると男はそこで限界を迎えた。膝から崩れ落ちそのま
ま蹲ると血と吐瀉物をぶちまける。
男の右目は目蓋が腫れ上がり既に視界を奪われている。口の中は切れ、鼻も潰
れており、顔の至る所には痣が出来ていた。無論。身体も打たれていないとこ
ろを探す方が難しかい。
「今のボディ、結構効いたかな?」
男は痛みに耐えながらその顔をゆっくりと上げた。視線の先には超名門と言わ
れるお嬢様学園高等部の制服に身を包んだスレンダーな体つきの少女が、ファ
イティングポーズを取っている。その少女は中性的な顔立ちとショートヘアで
活発そうな印象を与えてる美少女だった。おそらく異性、同性問わずに好かれ
るタイプ。その先には突然、現れた少女の鋭いストレートで鼻を打ち抜かれ気
絶した男の後輩が血溜りの中に倒れている。

男は必死に立ち上がろうとしたが身体は全く言うことを利かなかった。立ち技
系のプロ格闘家であり、その王座に就いている男は年端もいかない少女に一方
的に打ちのめされ、完膚無きまでに叩きのめされると言う屈辱と少女の圧倒的
な強さに身を震わせる。そんな男の脳裏にある噂が浮かんでくる。
「まさか、この女が…いや、そんなはずはない。しかし、俺の胴回し回転蹴り
を…違う、どこかで練習していたに違いない」
男の脳裏に浮かんできた噂は男の思考を支配し自分の置かれている状況もそれ
までの心境も忘れさせた。
「もう終り?つまらないなぁ」
少女は男がぶつぶつと呟いている様子を見てそう漏らすと右足を大きく振り上
げた。男の頭頂部へと踵を振り下ろされ、踵が男を噛砕かんとする巨竜が如く
襲いかかる。
「また付き合ってね、よろしく!」
男は薄れゆく意識の中で上機嫌でそう告げる少女の声を聞いたような気がした。

不況の煽りを受け倒産した工場の敷地で一人の男がある者を待っていた。その
男の視界に一人の少女が現れる。それと同時に男の脳裏にあの日の光景が蘇っ
た。
それは男をこの一年間、時折悩ませ続けた光景だった。男はその光景を振る払
うように手が白くなるほど強く拳を握りしめ少女を睨み付けた。
「お兄さん、お待たせ」
男の目の前に現れた少女は、その刺すような視線など全く感じてないかの様に
気軽な声をかけてきた。男はその様子に苛立ちを募らせた。
「お兄さんが、初めてかな?また付き合ってくれるって言ったの」
そう楽しそうに言う少女に男は先程、感じた苛立ちを忘れ鼓動が早くなるのを
感じた。

一年前と変わらず中性的な顔立ちとハキハキとした話し方でボーイッシュな印
象を与える少女だったが、その楽しそうな表情は男を引きつけてやまない魅力
に満ちている。
「ぼうっとしてどうしたの?」
いつの間にか少女に見入ってしまい我を忘れていた男の顔をのぞき込み少女が
そう訪ねる。この年頃の少女独特の甘い香りが男の鼻腔を刺激した。男の中で
少女をものにしたいと言う思いが疼く。
しかし、男は悪夢を振り払うためにこの少女と闘うと言う本来の目的を思い出
しその邪念を振り払おうとする。
「そう言えば名前をまだ教えてなかったよね。ボクはあさぎ、貴倉あさぎって
言うんだ。よろしく!」
男の思いを余所にあさぎは元気にそう告げる。

ファイティングポーズを取ったあさぎは楽しそうな表情をしたままだった。そ
の見た目は一年前、男がプロ格闘家と知りながら闘いを挑んできた時と何ら変
わらない。
男はその姿を見て背筋に怖気が走る。男はこの一年間、格闘技の表舞台から去
り、非公式な闘いに身を投じてきた。そして、その中で表舞台では出会えない
様な強豪の存在を知り、戦い抜いている。だが、あさぎの放つ存在感はそんな
男達と桁違いのものだと感じた。更には一年前の惨敗と言う悪夢が男を縛り付
ける。
男はその圧倒的な存在感による畏怖と過去の悪夢を振り払う為に挑みかかった。
先ずはあさぎの細身の身体から想像も出来ない重い打撃を封じる為に男はロー
キックを放つ。対するあさぎはそれをコンパクトなモーションのパンチで出鼻
をくじく。男の動きが一瞬止まるとあさぎは男の顎へ向け鋭いアッパーを打ち
上げた。だが、その拳は男の顎先に紙一重の差で止まる。

「まともに入ったら、顎割れちゃうよ。それと…ボクを倒したいなら小手先程
度の技じゃ無理だからね」
あさぎはそう言うと男なら誰もが魅了されそうな笑みを浮かべる。男はその様
子になぜ、あさぎに魅力を感じたのかを理解した。
少しばかり女の子らしくない言葉遣いと立ち振る舞い。そして、その中で時折、
見せる女性らしい表情。それがあさぎの女を引き立てているのだと。
しかし、今は闘いの最中だ。男はそんな場違いな考えを振り払い少女へと攻撃
を始めた。
拳を振るい、蹴りを放ち、旋風の様に振る舞う男。しかし、あさぎのその攻撃
を紙一重の差で見切りかわしていく。その度に少女の髪は拳や蹴りの風圧でな
びき、回避動作で膝上丈のスカートを翻す。その様子は華麗なダンスを想像さ
せた。

攻撃が当たらない事に冷静さを失い、男の攻撃は次第に大振りなものになって
いた。突然、あさぎは男のパンチを掴むとそのまま巻き込む様にして背負い投
げで男をアスファルトに叩付ける。男はその衝撃に一瞬、呼吸を止める。
そこへあさぎは拳を振り下ろす。しかし、その拳は男の頭を小突くに留まった。
「お兄さん、ちょっと頭を冷やしたら?隙だらけだよ」
あさぎは男にアドバイスをする。しかし、男にとってはそれは挑発でしかなかっ
た。男の顔は見る間に紅潮し脳は過剰なまでにアドレナリンを分泌を始めた。
その事により男はあさぎに対する恐怖と自分を縛っていた悪夢を忘れる事が出
来た。しかし、それと同時に欠片程度に残っていた冷静さを完全に失った。
男は跳ね起きると三度目のあさぎへの攻撃を始めた。大振りのフックがあさぎ
の頭部目掛けて放つ。あさぎはそのフックを身をかがめてかわし男の肝臓を右
の拳で突き上げ、更にがら空きの右脇腹、肝臓へ目掛けフックを打ち込む。
鳩尾と肝臓を捉えた二つの拳は外から打たれたにも関わらず、身体が内側から
弾けるような衝撃が男を襲う。男はその苦痛の中、既に思うように動かない身
体をそらせた。
そこへあさぎのアッパーが男の顎を掠める。男の膝がそれだけで崩れそうになっ
た。更にあさぎのフックが男の頬を捉える。辺りは浅かったのもが男の口の中
に鉄の味と硬いものが含まれた感触が広がった。

今にも膝をつきそうなのを堪え男は必死に構えを取ると砕けた歯を吐き出した。
男の怒りは一瞬にして消え失せ、頭が真っ白になっている。
「やるね~。お兄さん、あれをかわすなんて」
そう言いながらあさぎは今し方、披露したボクシングのそれとは違う流麗なフッ
トワークを披露する。
「この間、遊んでくれたボクシングをやってるって言うお兄さんが見せてくれ
たんだ。勿論、ボクには当たらなかったけどね。中々、かっこよかったからそ
の時、真似したんだ。その時、遊んだお兄さんはそれで沈んじゃったけど」
あさぎの言葉に男はこの一年の間、消えることの無かったあの噂を思い出した。
何年もかけて身に付けた技を一目、見ただけであっさりと自分のものにする者
が居ると。更にその技は闘いとトレーニングで磨き上げてきた男達のそれを凌
駕する切れ味と破壊力を持っていたと。
「君こそ、やるじゃないか…何かやっていたんじゃないか?」
男の脳裏に数日前、病院で横たわり治療を受ける知り合いのボクサーの姿が浮
かんできた。その結果、自然とその言葉が口から紡ぎ出される。
「やってたって言えばやってたかな。初めはお兄さんと会う半年くらい前。ガ
ラの悪い人達に絡まれちゃって」
男はあさぎの言葉を黙って聞いている。あさぎはそんな男に対し更に話を続け
た。
「その時、逃げようと思ってその人達を殴ったんだ、見よう見まねで。そうし
たら思ったより上手くいってね。みんな伸びちゃったんだ」
そう話すあさぎは嬉しくて溜らなかったと言う表情を浮かべた。初めて実戦で
の勝利。男にもその気持ちに覚えはある。だが、そこに根差すものは違う。
「ボク、ちょっと運動神経が良いんだ。格闘技は好きで色んな技を見たけど、
一回見ただけで真似できちゃう。だから思ったんだ。強い人と闘えばボクも強
くなれるんじゃないかって」
あさぎの言葉に男は身を震わせた。苦しい思いを重ね人生の大半を費やし身に
付けた技を、ただ身体能力の高さのみで模倣しそれを凌駕するあさぎに対し怒
り、悔しさ、無力感といった様々な感情が込み上げてくる。
「さてと…このままじゃせっかく暖まった身体が冷えちゃうよ。続きを始めよ。
試したかったこともあるしさ」
あさぎは男の様子に構いもせず一方的に告げると、自分から男へと仕掛けた。

一気に間合いを詰めるあさぎに対し、男は本能的に前へ出て左右の拳を振るう。
あさぎはその拳を身をかがめてかわしてから男の脇腹へと回し蹴りを叩き込ん
だ。更に同じ足で男の首筋を蹴ると身体を反転させ後ろ回し蹴りを放つ。
先程の拳とは比べものにならない痛みが男の身体を走り男はよろける。しかし、
男は痛みを無視し踏みとどまると再び前へ出て拳を振るった。
あさぎはその拳を後退してやり過ごすともう一度、あのフットワークを披露す
る。男はその足裁きをどこかで見たような気がしたが直ぐにその考えを中断さ
せられた。
あさぎの拳が男の顔目掛け何度も突き出される。一発、二発、三発。男はかろ
うじて徐々に加速していくその拳を身を捩らせながら避けたが遂に男の反応速
度を超えたあさぎの拳が男の鼻を潰した。大量の血が男の鼻から噴き出す。
しかし、あさぎの攻撃は留まることなく激しさを増した。
あさぎのアッパーが男の顎を砕き、後ろ回し蹴りが肋骨を叩き折る。呼吸をす
るだけで痛みが走り無理に身体を捻れば激痛に襲われる男。
だが、男はそんな事もお構いなしに戦い続けた。感情に任せ、拳を振り、蹴り
を繰り出す。無論、その攻撃は全く頼りないものだった。あさぎはそんな攻撃
をたやすくかわし捌きながら拳や肘、膝を打ち込み、蹴りを放つ。その攻撃は
男の内臓を痛めつけ脳を揺さぶり続けた。

男は遂に今にも崩れそうな膝を必死に支え、立ち尽くすのみとなった。男の身
体は一昨年前よりも傷つき、その顔も更に無惨なものとなっている。
「お兄さん、一年間、頑張ったみたいだね。これだけやられて立ってるなんて
凄いよ」
男はあさぎのその声に虚ろな目を向けた。
「それじゃ、とっておきを見せちゃおうかな。まだ、人には試したこと無かっ
たんだよね」
あさぎはその言葉が終えないうちに男へと向かい跳び蹴りを放った。宙を舞い
迫り来るあさぎ。その姿に男はあさぎの使った技が撮影中の事故で死んだアク
ション俳優が作り出した技だと確信した。
そして、あさぎの技を何処で見たか等と考えている自分を自嘲した。その瞬間、
鈍い音が響き男の意識は完全に途絶える。
「映画の中だけかと思ったけど本当に戦えるんだ、この技で」
男を倒したあさぎは会心の笑みを浮かべ感嘆の言葉を漏らす。
「お兄さん、今日もありがと。またよろしくね!」
あさぎは男が気絶しているとも知らず上機嫌で告げると立去った。
家路を往くあさぎの目にビルの壁面に付けられた大型ビジョンの映像が目にと
まった。そこにはある総合格闘技の大会の告知が流れている。大ファンである
あの男ともしかしたら戦えるかも知れない。その告知にあさぎの瞳は輝き始め
た。
その大会の数日前、来日したばかりの人類最強と謳われた大物選手が、事故の
ため今大会を休場するとの報せが世間を騒がせた。しかし、それは真実ではな
い。
発見された外人選手は確かに怪我を負い横たわっている姿を発見された。その
様は四肢の関節が逆にねじ曲げられ、外傷、内臓への損傷は格闘の末、与えら
れたものとしか考えられないものだった。
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